コラム

安倍首相が2018年に北朝鮮を電撃訪問すべき理由

2017年12月26日(火)12時10分

東日本大震災の被災地福島で政策を訴える安倍晋三首相(17年10月) Toru Hanai-Reuters


2017010209cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版12月26日発売号(2018年1月2日/9日合併号)は、2018年の世界を読み解く「ISSUES 2018」特集。グレン・カール(元CIA諜報員)、ジョン・サイファー(ニュースサイト「サイファーブリーフ」国家安全保障アナリスト)、小池百合子(東京都知事)、マリア・コリナ・マチャド(選挙監視団体スマテ創設者)、アレクサンダー・フリードマン(資産運用会社GAMのCEO)、トニー・ブレア(イギリス元首相)らが寄稿したこの特集から、日本政治の行方を占う記事を転載>

2018年がやって来る。1868年の明治維新から150年。世界はドナルド・トランプ大統領率いるアメリカを先頭に、力ある者が無理を通す荒くれの世、列強が奪い合う19世紀に戻ったかのようだ。おとなしい日本人はどうしたらいいのだろう。

この弱肉強食の世界で、中国やロシアは米一極支配が終わり、世界は多極化したとはやし立てる。だが、わが物顔に振る舞える世界になったと喧伝する中ロさえ、何をするか分からないトランプには逆らわない。

貿易問題で制裁を受けるのが何より怖い中国は、北朝鮮へ圧力をどんどん強める。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も、ウクライナ問題絡みの制裁を撤廃してもいいとほのめかすトランプに配慮。3月の大統領選を前に、反米カードで国民の支持を得る戦術を取れずにいる。

やはり米一極支配の基本は崩れていないのだ。内向きと言われるトランプだが、国防費はオバマ時代より大幅に増額して、「侮られないアメリカを取り戻そうとしている。貿易面でもアメリカは世界最大の市場、ドルは世界の経済取引の最大の手段であり続けている。流行の仮想通貨が基軸国際通貨となることを各国の通貨当局が認めない以上、中ロも日本もアメリカに足を向けては寝られない。

内向きとは言ってもいま起きていることは、アメリカが世界から退場するとかいう意味ではなく、米一極支配の枠内でアメリカが経済的分け前を取り戻すということなのだ。

自民党の総裁選挙が軸に

こうしたなかで日本は18年9月、与党・自民党の総裁選挙を迎える。17年10月の総選挙勝利後も安倍内閣の支持率は盛り上がらない。モリカケ(森友・加計学園)問題で国民の心は離れた。景気がいい、収入が増えたといっても、国民は別に政府のおかげとは感じていない。

国民は負担を招きかねない改革よりも現状維持を望んでいる。それでも、安倍晋三首相には飽きたし信用できないから政府の頭だけすげ替えてくれれば、というところだが、手堅くてかつ新鮮味のある首相候補はいない。

だから安倍政権は総裁選までは失点を防ぎつつ、少しでも得点を挙げることに夢中になるだろう。改憲も国民投票で負けたら元も子もないし、立相手の公明党にやる気がないので棚上げにされる。ここは急ぐことなしに、巡航ミサイルの購入や海上自衛隊の海上戦能力向上などを粛々と進めていくのが上策だ。

日米安全保障体制も、米政権にとって在日米軍基地は米軍を東半球に展開するために不可欠だから、大枠は安泰。日本にすぐ完全自主防衛できる力もない。

経済でも、多くの国民から喝采を博せる課題は見つからない。18年4月には黒田東彦日本銀行総裁の任期が切れるが、再任でも交代でもアベノミクスの看板は塗り替えられない。金融緩和をやめると言おうものなら円高が一気に進行し、デフレに逆戻りしかねない。アベノミクスの旗印はそのままに、今のひそかな「金融緩和の緩和」(日銀による国債買い付け量縮小)を続けることになるだろう。

やはり即効性があるのは外交だ、と安倍首相周辺は思うに違いない。まずはロシア。「らちが明かない北方領土返還要求はもういいかげんにして、平和条約を締結。シベリアから石油をどんどん輸入し、北方領土にも自由に投資できるようにすれば国民の喝采は間違いなし」と思うのは、奈落への道だ。石油は今でも日本の消費量の1割弱がロシアから入っており、北方領土に利益の上がるプロジェクトはほとんどない。拙速な妥協は世論の非難を浴びて、安倍不信を決定的にするだけだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story