コラム

空爆から1年半、なぜ「今回は」ガザの復興が進まないか

2016年03月04日(金)10時35分

イスラエルの攻撃から1年たっても破壊の跡は残り、まだテントが立っていた(ガザ、シュジャイーヤ地区で、2015年8月) 川上泰徳撮影

 先日、東京都内で、フリー・ジャーナリストで映画監督の土井敏邦さんが主宰するパレスチナ報告会「ガザ攻撃から1年半・いまパレスチナはどうなっているのか」があり、私もコメンテーターとして参加した。ガザの状況は2014年夏のイスラエルによる51日間の大規模攻撃から1年半が経過した今もなお、復興が進まず、困難が続いている。いま日本のテレビで取り上げられることはほとんどないが、土井さんの映画は、ガザの重要な変化を伝えている。

 報告会では土井さんが昨年11月にガザ入りした時の映像を編集した『絶望の街─ガザ攻撃から15ヵ月後─』が初上映された。土井さんは2014年夏のイスラエルによるガザ攻撃の時にガザに入り、映画『ガザ攻撃 2014年夏』としてまとめた。今回の『絶望の街』はそれから1年3カ月後の状況を報告する。2014年夏にインタビューした同じ人々を再訪して話を聞き、戦争直後との心境の変化を追っている。

『ガザ攻撃 2014年夏』
   

戦争支持から「ハマスに騙された」に変わった

 映画で最初に登場する男性(31)は最も被害が大きかったガザ市シュジャイーヤ地区の住人。2014年夏の停戦直後、全壊した家の前に建てたテントの中で、土井さんがインタビューをしている。「この停戦は勝利です。この戦争で、ハマスの人気は上がります。この犠牲は私たちの尊厳を守るためです」と語っていた。

 土井さんが昨年11月に再訪した時、その男性は戦争直後の自身のインタビューを見て、「私たちはハマスに騙されました」と語った。「私たちの尊厳は失われました。戦後、生活必需品が与えられるどころか、こちらがそれを求め哀願して回ることになってしまったんです」と彼は言い、「(ハマス)政府は戦争に責任があります。しかしハマスは住民の心配などせず、支援しようともしないんです」と語気を強めた。

【参考記事】「名前はまだない」パレスチナの蜂起

 ガザ地区東北部ベイトハヌーン町にあった5階建ての家を破壊され、2人の兄弟が殺害された家族は、仮設のコンテナハウスで暮らしていた。母親(59)は息子を失って嘆き悲しむ1年3カ月前の自分の映像を見た後で、「(あの戦争がもたらしたのは)ただ死と家の破壊だけです。殉死者と家の破壊を増やし、私たちをコンテナハウス生活に投げ込んだんです。これが私たちの生活です」と語った。

 コンテナハウスで母親と一緒に暮らす長男(39)は、「戦争中、私は政府を支持しました。政府の勝利を祈っていたんですよ。多くの死傷者が出て、家が破壊されても、私たちは最後まで、ハマスを支持し続けました。しかし戦後、政府は私を失望させました。政府は戦争が終わるや否や、私たちを見放したんです」と同様にハマスを非難した。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story