コラム

「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分裂・大迷走した根本的理由

2025年05月12日(月)11時18分

韓国大統領選挙の「最大の変数」は

1つは彼らが自らに与えられた時間を読み誤ったことである。韓国における大統領選挙では通常、半年以上前から各党の予備選挙が実施され、候補者も早期に選出される。それから他党や無所属の候補者との間で調整を行うのは難しくないが、今回の選挙は大統領弾劾による特殊なケースで、憲法の規定により大統領罷免確定から60日以内に新大統領の選出を終えなければならなかった。

2つ目は弾劾政局において、与党が一貫して弾劾反対の姿勢を見せたことである。尹の弾劾に反対する以上、来るべき大統領選挙に備えた準備を公式に行えず、ただでさえ突出した人気を有する大統領候補を持たない与党の選出は遅れた。金文洙を候補者に選出した党大会は5月3日。候補者登録開始は5月10日だから、わずか1週間の間に調整を行い、候補者たちが納得できる結果を出すのは最初から無理があった。

ここに、与党のジレンマが見て取れる。社会が両極化する中で、保守・進歩両勢力の中でも「左端」「右端」に位置する人が増えている。だからこそ与党指導部は党の団結を守るために、より支持層の多い「右端」に軸足を移した。しかし、その右旋回こそが逆に弾劾反対への固執を招き、大統領選挙への準備を遅れさせ、調整のために時間を取ることを不可能にした。
 
こうして「右旋回」により力を得た「右端」勢力は、党指導部の統制を離れて独自の行動を開始した。この状況が続けば、待ち受けるのは大統領選挙での大敗である。
 
与党、そして韓国の保守勢力はこの困難な状況下で団結を回復できるのか。そして、誕生の可能性が高まる進歩派政権に緊張感を与えうる「有力な対抗者」の地位を得ることができるのか。来たる韓国大統領選挙の最大の変数になりそうだ。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アクティビストのスターボード、米ファイザーの全保有

ワールド

米NY州知事、法人税引き上げ検討 予算不足に備え=

ビジネス

午前の日経平均は続落、見極めムード 中国関連は大幅

ワールド

マクロスコープ:日中関係悪化、長期化の様相 201
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story