コラム

総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

2024年05月08日(水)19時24分

最も重要な支持層を奪われる

とはいえ、それは野党に不安要因がないことを意味しない。なぜなら議席数で他党を圧倒した共に民主党であるが、その基盤は安泰とは言えないからだ。

世論調査会社リアルメーターの最新のデータで、共に民主党と国民の力の支持率の差はわずか1ポイント。にもかかわらず、前者が圧勝できた理由は、支持率で第3位の祖国革新党が地方区に候補者を出さず、共に民主党を支持したからだ。その祖国革新党が比例区で集めた得票率は支持率を上回る24.3%。共に民主党の26.7%に匹敵する数字になっている。


しかも、この2つの政党の支持基盤は同じではない。明瞭な特色を持つのは、祖国革新党の支持基盤である。

選挙当日に発表された出口調査によれば、祖国革新党に投票した人々は40代と50代に集中しており、しかも、男性が多くを占めている。彼らはこれまで、韓国の進歩派政党の中核的支持基盤となってきた人々であり、また80年代の民主化運動の流れをくむ人々である。

つまり、共に民主党は今回の選挙で、この最も重要な支持層を祖国革新党に奪われる形になっている。

対して、共に民主党と祖国革新党が競合した比例区で、共に民主党の投票において多くを占めたのは20代以下から30代の女性たちである。とりわけジェンダーに関心の強い20代以下の女性の支持が強く、この世代では半数を超える51%が同党に投票したと答えている。

曺が象徴する古い進歩勢力の考え方についていけない、「新しいリベラリズム」の信奉者が、消去法的にこの政党を支持しているよう見える。

80年代から続く古い民主化運動の流れをくむ人々と、新しいリベラリズムの価値観を重視する人々という、異なる2つの進歩勢力が、曺が率いる祖国革新党と李在明が率いる共に民主党に分かれて対峙する。「進歩派」という同じ看板を掲げながらも、異なる価値観を持つ人々がどこまで共闘を続けられるか、要注目である。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

スターバックス、中国事業経営権を博裕資本に売却へ 

ワールド

クック理事、FRBで働くことは「生涯の栄誉」 職務

ワールド

OPECプラス有志国の増産停止、ロシア働きかけでサ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB12月の追加利下げに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story