コラム

韓国「変則的な大統領制」の欠陥がもたらす奇妙な選挙制度

2022年03月29日(火)16時00分

そして、次にこの「全国地方同時選挙」が行われるのは、何と2022年6月1日、つまり、5月10日の尹錫悦大統領就任のわずか3週間後である。そう、この2022年こそが、韓国において大統領選挙と地方選挙のタイミングが「大接近」する年なのである。

だからこそ、この選挙の行方は新政権の行方を大きく左右することになる。仮に尹の期待どおり新与党が大勝を収めれば、彼等は世論の支持を盾に新野党への圧力を強め、その切り崩しにかかるだろう。

だが逆に、現在市長を保持するソウルをはじめとした各地域で敗れれば、今度は逆に野党が国民の支持を背景に、自らの政府への抵抗を正当化する事になる。そしてそうなればこの政権は、大統領就任からわずか1ヵ月にして、2024年4月の国会議員選挙までいかなる効果的な政策も打てない状態へと追い詰められることにすらなりかねない。その場合に待っているのは政治的不安定化である。

進歩派と保守派がしのぎを削る状況のなか、選挙は所詮水ものであり、その結果は予断を許さない。しかしながら明らかなことは、「変則的な大統領制」が大きな欠陥を有している、ということである。

時として大統領の大きすぎる権限が批判されるこの国であるが、韓国の人々はこの接近と離合を繰り返す奇妙な選挙制度の持つ問題にもそろそろ目を向けるべきなのではないだろうか。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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