コラム

英女王死去でデンマークが残念だった理由

2022年09月27日(火)17時50分
デンマーク女王マルグレーテ2世

今年で在位50年を迎えたデンマークのマルグレーテ女王は今やヨーロッパで最長在位を誇る君主に(写真は9月10日、コペンハーゲンの王立劇場で開催された記念式典にて)  Ritzau Scanpix/Ida Marie Odgaard via REUTERS

<英エリザベス女王の訃報で不運にも在位50年を祝うゴールデン・ジュビリーの催しが大幅に縮小されたデンマーク女王マルグレーテ2世は、実はこんなに偉大な人物>

たまたま僕は英エリザベス女王の訃報を聞いたときドイツを旅行中で、その後は旅程どおりデンマークに向かった。だから僕がその瞬間のイギリスの「国全体を覆う雰囲気」を推し量ることはできない。

代わりに僕はたまたま、デンマークの人々のちょっとした不運を目にすることになった。デンマークの女王マルグレーテ2世は今年で在位50年を迎え、そのゴールデン・ジュビリーを祝う催しの準備が国を挙げて進められていたのに、英エリザベス女王の死去によってその催しが著しく縮小されてしまったのだ。

実際のマルグレーテ女王の即位記念は1月だったが、新型コロナウイルス感染拡大を考慮して9月に延期する決定がなされていた。だからそれすらギリギリになって中止されたのは、デンマークの人々にとっては二重の不運だった。

今回の決定はマルグレーテ女王本人によって下され、イギリスからの要望などは全くなかった。だからこそイギリス人の1人として僕は、その心遣いに心を打たれ、同時に少し申し訳なさを感じた。82歳のデンマーク女王は今となってはヨーロッパで在位最長を誇る君主となり、現在君臨する世界で唯一の女性君主でもある。だから彼女は、既に女王であるだけでそうだったが、特に重要な国際的人物になった。彼女は国家的大行事で祝われるに値するのだ。

奉仕の精神に加え絵の才能も

デンマークの王位継承法は、マルグレーテが王位を継ぐことができるように改正された(彼女は父である国王の3人の娘の長女だったが、当時は女性の王位継承は認められておらず、彼女のいとこにあたる男子の王族も存在していた)。デンマーク国民がこの法改正を後悔したことはなかった。マルグレーテの在位中、君主の人気は常に高い80%超えを誇っていた。イギリスの世論調査では、君主制支持が60%から70%の間を揺れ動く傾向がある(故エリザベス女王への支持となると話は違ってきて、この数字より高くなりがちだ)。

僕の大学時代の親しい友人の1人はデンマーク人で、マルグレーテ女王が1992年に僕たちのオックスフォード大学を訪問した際に彼女に会えたことに大感激していた。女王が堅実で責任感が強く、そして優れた画家でもあると、友人が話していたのをよく覚えている。

僕は今回の旅行中、トールキンの『指輪物語』のデンマーク版に使われた挿絵をマルグレーテ女王が描いたことを知った。また、ひょんなことから最近のとある作品展で、トーベ・ヤンソン(ムーミンの作者)がトールキンの『ホビットの冒険』のスウェーデン版の挿絵を手がけたことも知った。そんな大作家と並ぶことからも、マルグレーテ女王の才能が見て取れる。

女王陛下万歳!

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story