コラム

日本の巨大年金基金はこうしてカモられる

2016年01月22日(金)18時40分

 相場指南はこのコラムのメインテーマではありませんのでこの辺りにするとして、昨年末から2016年1月20日時点の終値ベースで比較すると、北南米、欧州の主要株式市場の下落率は次の通りとなっています。

NYダウ 工業株30種 -9.5%
S&P 500種 -9.0%
ナスダック 総合指数 -10.7%
S&P トロント総合指数 -9.0%
メキシコ ボルサ指数 -5.0%
ブラジル ボベスパ指数 -12.4%
ユーロ・ストックス50指数 -12.3%
FTSE100指数 -9.1%
フランス CAC40指数 -11.0%
ドイツ DAX指数 -12.6%

 対して日経平均はハンセン指数と同じ-13.8%です。世界同時株安などといって、さも各国の主要株価の下落に日経平均株価が引きずられているようなイメージを醸し出していますが、それをいうなら世界的な株安を牽引している2トップの1つが日本と言えるでしょう。

 主要株価とは言えませんが、サウジアラビアのタダウル全株指数はさすがに原油安を受けて昨年末から21.01%の大幅下落になっていますが、その市場規模は微々たるものです。

 そもそも原油安で苦しくなるのは産油国であり、逆に多大なメリットを受けるのは原油を輸入に依存しているアジア、欧州、そして日本です。原油価格の値下がりによって、輸入国から原油輸出国へと支払われる原油代金は大幅に引き下がります。輸入国は払うはずだった金額を払わずに済むわけですから、日本もその分得をしたことになります。

 非常に大まかに、原油価格は2015年を通じて1バレルあたり 50 ドル以上の下落を見ました。仮に他のすべての定数が一定ならば、年間50ドルの値下がりは 原油輸出国から輸入国へ約6000 億ドル以上の所得移転を生じさせ、産油国の損=欧州とアジアが主な受益者となることは米財務省も2015年10月の為替報告書でも指摘しています。(P33のAnnexⅠのグラフがわかりやすいと思います。)

 果たして原油安のメリットを日本国民全体が享受しきれているか、という問題は別にありますが、日本の実体経済全体から鑑みれば、原油の大幅安があればこそ辛うじて底抜けせずに済んだ、との見立てもできます。実体経済にとってはプラスであるはずの材料を、株式市場への影響としてだけ捉え、株価低迷の主たる要因とする報道にも首を傾げざるを得ません。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イランとパキスタン、国連安保理にイスラエルに対する

ワールド

ロシア、国防次官を収賄容疑で拘束 ショイグ国防相の

ワールド

インドネシア中銀、予想外の利上げ 通貨支援へ「先を

ビジネス

超長期中心に日本国債積み増し、利回り1.9%台の3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story