イスラエル軍でPTSDと自殺が急増、ガザ戦争長期化でメンタルケアが急務
イスラエルのアフラにある戦闘退役軍人向けクリニックで、介助犬を抱きしめる男性。2025年12月15日撮影。REUTERS/Shir Torem
Emily Rose
[エルサレム 16日 ロイター] - イスラム組織ハマスによるイスラエル南部への攻撃をきっかけに始まったガザ戦争は2年以上続き、イスラエルでは、兵士らの心的外傷後ストレス障害(PTSD)や自殺が急増している。
国防省や医療機関が最近まとめた報告では、ガザやレバノンで戦闘が続き、イランとの緊張も高まる中、軍人が直面するメンタルヘルスの危機が詳細に記されている。
ガザ戦争はレバノンの親イラン武装組織ヒズボラとの国境を越えた交戦へと急速に拡大。ガザとレバノンの前線には数十万人の兵士や予備役が動員された。
ガザとレバノン当局は、イスラエル軍によってガザで7万1000人超、レバノン南部で4400人が殺害されたとしている。一方、イスラエルは23年10月7日以降のイスラエル軍の死者は1100人以上と発表した。
戦争によりガザの大部分はがれきと化し、200万人の住民は適切な避難場所、食料、医療や保健サービスへのアクセスを欠いている。
パレスチナのメンタルヘルス専門家らは、ガザの人々が「火山のような」状態の心理的トラウマに苦しんでいるとし、治療を求める人が急増し、子どもたちの間では悪夢や集中力の欠如といった症状が広がっていると指摘する。
<イスラエル兵のPTSD、23年以降40%増>
イスラエルの調査によると、ガザでハマス壊滅、人質奪還、ヒズボラの武装解除という政府の目標を実行している兵士の精神的負担は深刻だ。また、軍の基地がハマスに襲撃された23年10月7日に攻撃を受けた兵士らも苦しんでいる。
国防省によると、23年9月以降に兵士のPTSD症例が40%近く増えたほか、28年までに180%増加すると予測している。戦争での負傷で治療中の2万2300人の兵士・関係者のうち、6割がPTSDを抱えているという。
同省は、メンタルヘルス問題への医療提供や予算を拡充し、代替療法の利用も約50%増えたとしている。
同国2位の保健機構「マッカビ」は、25年の年次報告で、治療中の軍関係者の39%がメンタルヘルス支援を求めたことがあり、26%がうつの懸念を訴えたと明らかにした。
サーフィン療法を行うNGOハガル・シェリなど複数の団体は、PTSDに苦しむ兵士・予備役の受け入れを拡大している。元兵士の中にはセラピードッグを頼りにする人もいる。
<民間人誤射による「道義的損傷」>
イスラエル北部のエメク医療センターで戦闘退役軍人の研究を統括する臨床心理士、ロネン・シディ氏は、兵士が主に2種類の外傷に直面していると語る。
一つは、ガザやレバノンへの派遣中、さらには国内に戻った後も続く「強い恐怖体験」や「死への恐れ」だ。多くは、約250人が人質としてガザに連れ去られた10月7日のハマス攻撃と、その後の状況を目の当たりにしている。
もう一つは「道義的損傷」とされる、自身の行為が良心や倫理観を傷つけるものだ。
「多くの(兵士の)瞬時の判断は妥当だが、そうでないこともあり、その結果として女性や子どもが誤って負傷したり死亡したりする。無実の人を殺してしまったという感覚を抱えながら生きることは非常につらい。やり直すこともできない」と同氏は語った。
28歳で3人の子の父親である予備役のポールさんは、帰国後も頭上を飛ぶ弾丸の「ヒュンという音」が聞こえ続け、グローバル企業のプロジェクトマネジャーの仕事を辞めざるを得なかったと述べた。
プライバシーの懸念からファーストネームだけを明かしたポールさんは、ガザやレバノン、シリアで戦闘任務に就いた。最近は戦闘が沈静化しているものの、常に警戒状態で生活しているという。
「毎日そうやって生きている」とポールさんは語った。
<治療されないトラウマ>
兵士がメンタルヘルスに関する公的支援を求めるには、国防省の審査委員会に出頭し、症状の程度や公式認定を受ける必要がある。この手続きは数カ月かかることがあり、それが受診の妨げになっていると専門家は指摘する。
国防省は、評価手続きが始まった段階で一定の即時支援を提供しており、戦争開始以降、その取り組みを強化したとしている。
イスラエル議会の委員会は去年10月、24年1月から25年7月までに279人の兵士が自殺未遂を起こし、過去数年と比べて急増したと指摘した。
トラウマが治療されなければ、自殺や自傷のリスクは高まると臨床心理士のシディ氏は述べる。
「23年10月7日以降、イスラエルのメンタルヘルス機関は(患者数の増加で)限界に達しており、多くの人は治療を受けられないか、いま感じている苦痛が過去の体験に起因することに気付けていない」
兵士らにとって戦闘の可能性は依然として高い。イスラエル軍はガザの半分以上の地域に展開を続けており、昨年10月の米国の支援による停戦合意後も戦闘は続き、パレスチナ人440人超とイスラエル兵3人が死亡した。
同軍はレバノン南部でも一部地域を占領し、レバノン軍は別の米国仲介合意に基づきヒズボラの武装解除を進めている。シリアでは、アサド前大統領の失脚後、イスラエル軍が南部の支配地域を拡大している。
イランとの緊張が高まり、米国が介入を警告する中、イスラエルは昨年6月の12日間の紛争後、再びイラン政府との衝突に直面する可能性がある。
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