マクロスコープ:自民総裁選、迫る「フルスペック」のタイムリミット

自民党の臨時総裁選の要否をめぐり、「フルスペック」での実施を決めるタイムリミットが迫っている。写真は自民党本部。7月3日、東京で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)
Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 27日 ロイター] - 自民党の臨時総裁選の要否をめぐり、「フルスペック」での実施を決めるタイムリミットが迫っている。党内の「石破降ろし」の声が収まらない一方、日米関税交渉や長引く物価高対策など課題が山積する中で、経済対策を審議する臨時国会の早期召集が避けられないからだ。
実施派、反対派それぞれが「決め手」を欠いており、双方がジレンマに陥る異常事態となっている。
自民党は27日、総裁選管理委員会を党本部で開いた。委員長の逢沢一郎衆院議員は記者団に、臨時総裁選の実施を要求する国会議員は署名捺印した書面を提出するものとし、氏名を公表する方針を明らかにした。各都道府県連代表への意見聴取を含め、近く予定する参院選の総括後「間髪を入れずに」手続きを始めるという。
<シナリオに狂い>
党内手続きは徐々に進むものの、先行きは依然見通せない。石破茂首相(党総裁)の退陣を求める国会議員らが当初描いたシナリオはこうだ。
8日の両院議員総会で、党則に基づく臨時総裁選の要否を問う意見聴取の実施を決める。追い込まれた石破首相が自ら月内に退陣を表明し、臨時国会の召集までの間に余裕をもって全国の党員・党友にも投票してもらう「フルスペック」の総裁選を実施する。
この場合、特に旧安倍派の議員らを中心に昨年9月の総裁選で次点だった高市早苗前経済安全保障担当相を本命視。それに反発する議員からは、小泉進次郎農林水産相や林芳正官房長官を担ぐ声が聞かれた。
ただ、どの「ポスト石破」候補への支持も雪崩を打つ様子がない。党内には「高市さんの背後にはどうしても裏金問題の当事者だった議員らの影がちらつく」「小泉氏は日米交渉などぎりぎりの外交交渉ができるのか不安」「林氏は地味すぎて選挙に勝てない」など、様々な声が飛び交う。
参院議員の一人は「(石破降ろしの)大将が決まらないうちは、執行部と戦おうにも戦えない」と漏らす。
一方、石破首相の続投を望む議員らにも妙案があるわけではない。日本テレビの調査によると、総裁選実施を求める議員は、反対派の3倍ほどに上る。ある衆院議員は「自民の問題は顔を替えれば一朝一夕でなんとかなるものではない」と話すものの、同様の声が広がっているとは言いがたいのが現状だ。
<秋の臨時国会にらみ>
双方にとって一つの「タイムリミット」となるのが秋の臨時国会だ。元政務三役は「年内に補正予算を通すには10月頭に臨時国会を召集する必要がある」と語る。「フルスペック」の臨時総裁選を実施する場合、投票用紙の郵送や集計、候補者の全国遊説など準備を含めて3週間以上かかるとも言われ、「技術的に難しい」と言う。
自民が党内政局を優先して国会召集が遅れ経済対策が後ろ倒しとなれば、国民の反感を買うのは必至だ。一方で、党則で「特に緊急を要するとき」に認められる両院議員総会での新総裁決定となれば、「声が反映されなかった全国の一般党員が辞めてしまう」(前出とは別の参院議員)事態にもなりかねない。
ただ、石破首相が外交や臨時国会などを理由に続投した場合も、衆参で与党が過半数を割っている現状が変わらなければ、予算や重要法案の審議で行き詰まるのは自明だ。
状況を注視する経済官庁の幹部は、「石破首相が続投するか否かを望む立場にない」とした上でこうつぶやいた。「続投するならせめて連立を組み替えて与党多数の国会にしてほしい。そうしなければ臨時国会は乗り切れても通常国会での来年度予算の審議はもたない」
<消去法で続投前提の金融市場>
混沌とする現状を専門家はどう見ているのか。SBI証券チーフ債券ストラテジストの道家映二氏は「マーケット参加者は、株、為替、債券含め特に石破首相が続投すると信じているわけではない。よくわからないので消去法で『続投前提』で考えているのが現状だ」と説明する。
臨時総裁選を実施する場合、「『フルスペック』なら高市氏が有力。そうでなければ小泉氏や林氏が本命候補だろう」と予測。「マーケット的には高市氏になれば財政拡張」とした上で、「石破氏続投なら日銀の利上げなど金融正常化が進むだろう。小泉氏と林氏も同様に財政は健全化方向ではないか」と話す。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)