アングル:日米金利差、縮小思惑でも円高進まず パウエル講演後も霧晴れず

ドル/円相場の視界は、ジャクソンホール会議を経てもクリアになっていない。写真は会議に出席したパウエル議長ら。8月22日、ジャクソンホール(ワイオミング州)で撮影(2025年 ロイター/Jim Urquhart)
Atsuko Aoyama
[東京 25日 ロイター] - ドル/円相場の視界は、ジャクソンホール会議を経てもクリアになっていない。パウエル連邦準備理事会(FRB)議長の発言がハト派寄りと受け止められたほか、日銀の植田和男総裁の利上げ継続姿勢も伝わったが、日米金利差縮小が予想される中でもドル/円は底堅い動きとなり、市場の気迷いがうかがえる。
<決め手欠く発言>
ドル/円相場はジャクソンホール会議が「転換点」になるとみられていた。9月米利下げの方向性を占う重要イベントとみられていたためだ。ところが結果は、利下げへの思惑をつないだ一方、利下げを決定づけるわけでもない、中途半端な内容と受け止められている。
パウエル講演の直前の週後半にドル/円は上昇していた。利下げに慎重なFRB幹部の発言や米経済指標の強い数字などが利下げ期待を後退させていた。市場の9月利下げの織り込みは一時7割台に低下した。
それが講演を経て8割台を回復したが、一時ほぼ100%織り込んでいたことを踏まえると戻りは鈍いとみることも可能だ。
今回の講演でのパウエル氏の発言が、9月の利下げ実施を市場に確信させるには決め手に欠くためだ。
講演でパウエル氏は「失業率やその他の雇用関連指標が安定しているため、政策スタンスの変更を検討する際は慎重に進めることができる」と説明。利下げを示唆したと受け止められたものの、利下げの「時が来た」と述べた昨年に比べると「はっきりと明言したわけではない」(三菱UFJ銀行チーフアナリストの井野鉄兵氏)と受け止められている。
講演を挟んでドルは148円後半から約2円下落した。ただ、この動きは直前のドルの上昇分の巻き戻しが中心とみられている。「利下げの有無や利下げ幅は結局、データ(経済指標)次第」(あおぞら銀行チーフ・マーケット・ストラテジストの諸我晃氏)となるとの見方もある。
<むしろドル高>
ベセント米財務長官が日銀の政策が後手に回っていると指摘した後でもあり、今回のジャクソンホール会議では、植田和男日銀総裁の発言機会にも高い関心が寄せられていた。植田総裁は持続的な賃金上昇圧力に言及し、利上げ継続の意向を示すものとの受け止めが市場にはあった。
米国の利下げと日銀の利上げの組み合わせは、日米金利差縮小への思惑を生むはずだが、25日のアジア時間では、仲値公示にかけてむしろドル高/円安に振れる場面があった。
輸入企業のドル買い需要が、東京市場でドルの押し上げに作用したとみられ、事業会社の間でも、ドル安/円高への過度な思惑は高まっていない様子がうかがわれる。
<交錯する強弱感>
三井住友銀行チーフ為替ストラテジストの鈴木浩史氏は、パウエル氏の講演を受けて、労働市場の状況を差し置いて据え置きを決定するにも「ハードルが高く、ゆっくりとしたペースの利下げを市場参加者としては織り込みやすい」と指摘する。
追加利下げなど今後の道筋はみえておらず、年末にかけてインフレに対する関税の影響が出てくることへの警戒感はあまり変わらないことを踏まえると、「際どい判断が続く」と鈴木氏はみており、145円を割り込むほどのドル安/円高は想定しづらいと話している。
一方、あおぞら銀の諸我氏は日銀について、植田総裁は今回は利上げに直接言及することはなかったものの「賃金が上昇基調にあるためショックがなければシナリオ通り進むとしており、10月の利上げの可能性は高まった」とみる。
現在、市場は5割程度しか10月実施を織り込んでおらず、仮に実際、10月に利上げに動くようならドル143円までの下押しはあり得るとの見方を示している。