ニュース速報

ワールド

焦点:移民抑制へ「海上封鎖」求めるイタリア、EU内で軋轢も

2023年09月24日(日)08時01分

 EU諸国の海軍による「ソフィア作戦」は、地中海の中央海域で4万5000人の移民を救出した末に、3年前に終了した。当時は野党党首だったメローニ氏は作戦終了を歓迎していたが、イタリア首相の座にある今日、同氏は作戦の再開を希望している。写真はランペドゥーザ島で18日、救助された移民を乗せたイタリア沿岸警備隊の船舶(2023年 ロイター/Yara Nardi)

Alvise Armellini

[ローマ 19日 ロイター] - 欧州連合(EU)諸国の海軍による「ソフィア作戦」は、地中海の中央海域で4万5000人の移民を救出した末に、3年前に終了した。当時は野党党首だったジョルジャ・メローニ氏は作戦終了を歓迎していたが、イタリア首相の座にある今日、同氏は作戦の再開を希望している。

だが今回メローニ首相が望んでいるのは、EUの艦艇が海上で移民の生命を救うことよりも、北アフリカからの移民出航の阻止に集中することだ。もっとも、移民問題や国際法の専門家によれば、その願いは現実的ではないという。

メローニ首相が姿勢を転換した裏には、地中海経由での北アフリカからの移民流入を阻止するという同氏率いる右派政権の公約が、ランペドゥーザ島に移民が上陸したことで破られてしまった件がある。

人口約6000人のランペドゥーザ島には、前週、1万人を優に超える移民が到着した。

ランペドゥーザ島はチュニジア、マルタ、そしてイタリアのシチリア島の間に位置する地中海の島だ。EUを目指す多くの移民にとって最初の寄港地となっている。

メローニ首相は17日、EU欧州委員会のウルスラ・フォンデアライエン委員長と共にランペドゥーザ島を訪れた数時間後、テレビでのインタビューで、次回の欧州理事会で移民問題を協議する際に提案しようとしているのは、まさにソフィア作戦の再開だと述べた。

EUおよびイタリアによる過去の海上作戦と同様、「ソフィア作戦」に対しても、メローニ氏をはじめとする右派政治家は反発していた。貧弱なボートで移動することの多い移民が救助される可能性が高くなることで、欧州への渡航を促すことになる、という理由である。

移民の出航を阻止するためにEUの艦艇を再動員するというメローニ首相の考えを巡っては、違法で実行不可能だとの批判も出ている。

移民研究国際・欧州フォーラム(Fieri)のフェルッチオ・パストーレ代表は「海軍艦艇による封鎖を実施しようとするのは、思いもよらない違法な戦争行為で、悲惨きわまりない影響を及ぼすだろう」と語る。

パストーレ代表は、移民の乗るボートを押し返すことは難民に関する国際ルールや欧州人権条約に違反しており、作戦遂行上の危険も伴うとして、イタリアとアルバニアの間で生じた事件を引き合いに出す。

1997年、イタリア、アルバニア両国政府がアドリア海経由での移民を阻止するために合意した海上封鎖作戦を遂行していたイタリア海軍の艦艇が、移民の乗ったボートと衝突。これにより81人が死亡した。

<EU内部でのあつれき>

「ソフィア作戦」を再開するとなれば、救助した移民をどこに移送するかという問題も浮上する。2020年に同作戦が終了したのは、救助された難民をEU内で再配分するよう求めたイタリアの要請に他のEU諸国が難色を示したことが理由だった。

「『負担を分かち合う』という意味での欧州の連帯は、少なくとも(来年の)欧州(議会)選挙までは機能しない。その先も無理だろうと私は思っている」とパストーレ代表は言う。選挙運動期間中は党派対立が強まるから、という趣旨だ。

ここ数週間でも既にその兆候は現われており、フランスとオーストリアはイタリアからの移民流入を防ぐために国境管理を強化している。

匿名のドイツ高官はロイターに対し、イタリア政府は1990年代にさかのぼるダブリン協定に違反し続けていると指摘した。亡命希望者がEU内で最初に到着した国で申請を処理するという趣旨の協定だ。

イタリアは、新規に到着する移民が圧倒的に多いため、ダブリン協定を尊重することは不可能だと主張している。

フォンデアライエン欧州委員長はランペドゥーザ島訪問の際、メローニ首相が提案した海上封鎖計画に賛意を示すことは控え、「地中海における既存の海軍作戦を拡大する、あるいは新たな作戦に取り組むといった選択肢の検討」を支持すると述べるにとどまった。

フォンデアライエン委員長は「10項目の行動計画」を提示したが、その骨子は、既存のEU政策ツールによりイタリアにより多くの支援を提供することと、まだ実施に至っていないEU─チュニジア間の移民抑制合意を加速させるという約束だった。

イタリアは海上封鎖作戦には北アフリカ諸国の同意も必要だとしているが、他のEU加盟国はこうした作戦について公式のコメントを出していない。ただしEU本部の外交筋によれば、ドイツは反対の姿勢だという。

<「新たな発想はほとんど見られず」>

最新のEUおよびイタリアからの提案について、ミラノ大学で移民社会学を研究するマウリツィオ・アンブロジーニ教授は、新たな発想はほとんど見られず、レトリックと懸念にあふれた過剰演出になっているように思われる、と語る。

メローニ内閣は18日、イタリア在留資格のない移民を対象とした収容センターを増設し、本国送還待ちで収容可能な最長期間を3カ月から18カ月に延長する措置を採択した。

メローニ首相は「多年にわたる移民に寛容な政策」を反転させるためには、こうした措置が必要だと述べている。

だがアンブロジーニ、パストーレ両氏は、過去に収容期間を延長しても本国送還件数の増加にはつながらず、その後撤回されてしまったとするデータがあると指摘している。

両氏によれば、本国送還は困難でコストがかかり、亡命申請を却下された難民の出身国を当局が特定し、帰国を認めるよう当該国を説得することは難しい場合が多いという。

パストーレ氏は「(移民は)奇跡のレシピや特効薬のない巨大な問題」であり、アフリカ諸国との協力による辛抱強い外交・経済開発努力に代わるものはないと語る。「この先何十年も付き合っていく問題だ」

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中