ニュース速報

ワールド

アングル:党大会控えた北朝鮮、党よりも金が幅をきかす社会に

2016年05月02日(月)13時42分

 4月28日、韓国に住む脱北者のキム・ダンビさんの兄は北朝鮮に住み、同国の支配者層の見本となっている。写真は北朝鮮の故金日成主席の生誕104周年を祝う記念式典。14日に平壌で撮影(2016年 ロイター/KCNA)

[ソウル 28日 ロイター] - 韓国に住む脱北者のキム・ダンビさんの兄は北朝鮮に住み、同国の支配者層の見本となっている。彼は朝鮮人民軍陸軍の退役軍人であり、朝鮮労働党員だ。さらに今では国営企業の幹部も務めている。

しかし、キムさんによると、彼女の兄は時間がある時に、テレビや寝具といった中国からの密輸品を取引するのを手伝っている。これは最近、車を買えるほど儲かる副業となったという。

「党に属することは金銭的には何の役にも立たない」とキムさんは言い、「自分で事業をする人々にとっては、それは重荷にさえなっている」と語る。

キムさんの兄の話は、よちよち歩き状態の半合法的な市場経済が、北朝鮮指導者である金正恩第1書記に難題をもたらしていることを示している。こうした経済は、孤立した独裁的な国で根付いてきた。

北朝鮮は5月6日から平壌で始まる朝鮮労働党党大会に向けて準備を進めている。36年ぶりとなる党大会に集う何千人もの代表団にとっては、このイベントへの出席自体が支配層における自らのステータスを確認するものとなる。しかし、韓国に渡った脱北者によると、北朝鮮の多くの人々にとっては、お金の方が党員資格に勝るものとなっている。

「入党すれば、党行事に出席しなければならないため、市場で商売ができる時間を失ってしまう」。2014年に平壌から脱北した元党員で、元政府高官でもある男性はこう語った。

「一般の人々は、それが自分には全く関係がないと思っている」と来月開催される党大会に言及。男性は、北朝鮮にいる家族を守るため、実名を明かすことを拒否した。

<党の文化>

朝鮮労働党の文化は、北朝鮮のいたるところにある。たいていの村は、党役人が毎週土曜日に講義をする建物を有している。そして、伝統的な国営メディアの力の及ばない地域に、中央集権的なプロパガンダを広めている。

党員の中には、党員カードを失うことを恐れて、金のかなづちと鎌、党の絵筆のモチーフで彩られた深紅色のポーチの中に、党員カードを保管する者もいる。

ロイターが入手した1つのポーチは、隠されたガンホルスターのように身に付けられるようデザインされていた。それは、着用者の心臓の上の近くに党員カードが来るよう、胸部にわたって伸縮性のあるバンドで引っ張られていた。

党員は毎週水曜日、仕事後に講義に参加するよう義務付けられている、と2001年に脱北するまで朝鮮労働党に属し、今も同国内の複数の人物と定期的な接触を持つソ・ジェピョンさんは語る。

来週の党大会に向け人々を動員するキャンペーンが行われるなか、講義は金正恩体制の下でより厳しく統制されるようになったと同氏は話す。金正恩氏は「先民」政治の実現を約束するため、昨年の党創建70周年を利用している。

かつては定期的な行事だった党大会が最後に開催されたのは1980年だった。

平壌ウオッチャーの中には、今回の党大会で、父親の金正日氏が裏ルートの駆け引きによって統治してきた国を、若き指導者の金正恩氏がより「普通」の国に変えようとする兆しだとみる者もいる。北朝鮮では正式な党のプロセスが深く根付いている。

しかし、脱北者や学者によると、党員であることの重要性は、1990年代の大飢饉の頃からなくなってきている。この時の飢饉は、ボトムアップ式で非公式な市場のネットワークへの道を切り開いた。多くの北朝鮮の人にとっては、国家に代わるものとなっている。

「かつては労働党員であるかないかの違いは、人間として扱ってくれるかどうかの違いだった」。現在ソウルで他の脱北者と働くソさんはそう説明する。「党員であることの誇りは弱まっている。人々は今、金についてしか考えていない」

<金と権力>

北朝鮮の労働党員についてのデータは手に入れることができない。しかし、人口約2500万人のうち、約300─400万人が党員だと推定されている。

脱北者によると、北朝鮮ではかつては党員であることが良い仕事と身分を得るカギになっていた。

ヒエラルキーの中で誰もが望む地位を得るためには、元指導者の故・金正日氏や故・金日成氏の像の周囲を掃除したり、革命を記念する場所や史跡で献花をしたりして忠誠心をみせることが必要とされている。

上層部の一部の者にとっては、党員であることが大金持ちになることへの1つのルートになっている可能性がある。旧ソ連式の統制経済を今も公式に支持する朝鮮労働党は、社会への統制を失うことを恐れて、市場を許容し始めている。

「経済尺度での上部には、政治的なコネクションを使って資源にアクセスができ、最も金を稼ぐことができる党の関係者がいる」。北朝鮮経済を専門とする、オランダのライデン大学の研究者のクリストファー・グリーン氏はそう語る。

しかし、大多数の人々にとっては、プライベートビジネスにいそしむことの方が、党の出世階段をのぼっていくことよりも重要だ。

北朝鮮では労働党員に属する医師で、2014年にソウルに来た脱北者は、党が管理する病院の医師たちに給与が支払われておらず、患者の治療をすることで賄賂をもらっていたと証言した。

この脱北者の男性は、職務時間外に、中国から密輸した小さな電気製品や宝石類を取引することで収入を補っていたという。男性は匿名を条件に取材に応じた。

「病院ではシフト勤務なので、半分の医師が物を売るために外出し、残りの半分が患者の治療に当たっている」と男性は語った。

(Ju-min Park記者, James Pearson記者、翻訳:高橋浩祐、編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中