ニュース速報

ワールド

アングル:イスラム国と戦うキリスト教徒、欧米から「義勇兵」も

2015年02月16日(月)16時25分

 2月15日、過激派組織「イスラム国」と戦うため、キリスト教の「義勇兵」としてイラクとシリアに入る欧米人も少なからずいる。写真はキリスト教系民兵組織「Dwekh Nawsha」に参加する唯一の外国人女性。イラク北部ドホークで13日撮影(2015年 ロイター)

[ドホーク(イラク) 15日 ロイター] - イラクとシリアには過去2年、海外から数千人に上る「戦闘員」が流れ込んだ。その多くは過激派組織「イスラム国」に参加するためだが、一方で、キリスト教の「義勇兵」として両国に入る欧米人も少なからずいる。

彼らは、自国政府がイスラム国との戦闘に及び腰であることに不満を募らせ、無実の市民が苦しめられていることに義憤を感じている。最近イラクに戻った元米陸軍兵士ブレットさん(28)もその1人だ。

背中に「大天使聖ミカエル」のタトゥーを入れたブレットさんは、2006年に駐留米軍の一員としてイラクに派遣されていた。

当時大切にしていたポケットサイズの聖書は今も肌身離さずに持っているが、約10年前の状況に比べると「全然違う。今は人のため、信仰のために戦っている。そして敵ははるかに大きく残忍だ」と語った。

欧米からの義勇兵が参加するのは、イラク北部ニナワ州で編成された民兵組織「Dwekh Nawsha」。同組織の名前は、アッシリア人キリスト教徒が今も使う古代アラム語で自己犠牲を意味する。

ニナワ州の州都は、昨年6月にイスラム国が制圧したイラク第2の都市モスル。Dwekh Nawshaと関係のあるアッシリア系政治団体の事務所の壁には、モスルの周囲に扇状に広がるキリスト教徒居住区が印されている。

その多くは現在、イスラム国の支配下にある。そこではキリスト教徒に人頭税が課され、イスラム教への改宗を拒否すれば処刑が待っている。多くの住民は家を捨て逃れた。

Dwekh Nawshaはニナワ州のキリスト教徒居住区を保護するため、クルド自治政府の治安部隊「ペシュメルガ」と共同戦線を張っている。

前出の元米陸軍兵士ブレットさんは「ニナワ州で教会が鐘を鳴らせる町は少ししかない。他のすべての町で鐘の音はやんでいる。それは許しがたい」と語った。

他の外国人志願兵と同様、ブレットさんも家族に危害が及ぶのを心配して姓を明かさずに行動している。

<残虐行為をやめさせる>

志願兵の1人、英国出身のティムさん(38)は、昨年に建設会社を閉業し、家を売った資金でイラク行きの航空券2枚を購入した。1枚は自分のため、もう1枚はインターネット上で知り合った米国人ソフトウエアエンジニアのためだった。

ドバイ空港で落ち合った2人は、クルド人自治区東部のスレイマニヤに飛び、そこからタクシーを使って先週ドホークに入った。

「変化をもたらすため、願わくば残虐行為をやめさせるために来た。自分はイングランド出身のごく普通の男だ」とティムさんは語る。

米国人ソフトウエアエンジニアのスコットさん(44)は、1990年代に米陸軍に所属していたが、最近はノースカロライナ州でコンピューター画面をにらむ生活を送っていたという。

スコットさんは、イスラム国の戦闘員がイラクで少数派ヤジディ教徒を迫害する映像に衝撃を受け、イスラム国が侵攻したシリア北部のクルド人都市コバニ(アインアルアラブ)の苦境も頭から離れなくなったと話す。コバニでは最近、米軍による空爆の支援を受けたクルド人民兵組織「人民防衛隊(YPG)」が、イスラム国を撃退した。

当初スコットさんは、外国人志願兵を集めていたYPGへの参加を考えていたが、YPGと武装組織「クルド労働者党(PKK)」との関係に疑いが深まり、中東へ向かう4日前に方針を変えたという。

スコットさんら外国人志願兵が懸念するのは、欧米政府がテロ組織と認定するPKKと関係すれば、帰国がかなわなくなるかもしれないこと。また、PKKの左翼的思想に対する嫌悪感も隠さない。

Dwekh Nawshaで唯一の外国人女性は、YPGでの女性の役割には感銘を受けたものの、キリスト教民兵組織の「伝統的な」価値観の方がより身近に感じたと説明。イスラム過激派は多くの対立の根源になっており、封じ込めなくてはならないと力を込める。

ロイターの取材に応じた外国人志願兵たちは、イラクに骨を埋める覚悟もあると口をそろえる。

自身の命が犠牲になる可能性について聞いてみると、ブレットさんはこう答えた。

「誰もが必ず死ぬ。自分が一番好きな聖書の一節にはこう書かれている。死に至るまで忠実なれ、さらば生命の冠を与えん」

(原文:Isabel Coles、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ初の女性大統領、シェインバウム氏勝利 現政

ワールド

エルニーニョ、年内にラニーニャに移行へ 世界気象機

ワールド

ジョージア「スパイ法」成立、議長が署名 NGOが提

ビジネス

アングル:認証不正が自動車株直撃、押し目買い機運削
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 5

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 6

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 7

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 8

    「娘を見て!」「ひどい母親」 ケリー・ピケ、自分の…

  • 9

    中国海外留学生「借金踏み倒し=愛国活動」のありえ…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中