ニュース速報
ビジネス

マクロスコープ:春闘スタートへ、賃上げ率5%も視野 生活実感改善に円安の壁

2026年01月20日(火)15時17分

写真は2021年7月、都内で撮影。REUTERS/Maxim Shemetov

Kentaro Sugiyama

[東京 20日 ロ‍イター] - 経団連は20日、2026年の春闘に臨む基本指針を公表し、「賃上‌げの力強いモメンタムのさらなる定着が必要」との見解を示した。専門家からは、定期昇給分を含む賃上げ率が3年連続で5%台に達するとの観測が出ている。一方、物価上昇を考慮した実質賃金はマイナスが続いており、2月の衆院選では物価高対策と‌消費税の扱いが焦点になっている。補助金や​減税など痛みの緩和に議論が偏るようだと、財政不安を起因とする円安と物価高の悪循環から抜け出すのは困難だ。

    今年の春闘賃上げ率は昨年夏時点で4%台後半が市場のコンセンサスだったが、米国の関税措置による影響が一部にとどまる見通しとなり、企業収益全体が大きく下振れするとの懸念は後退してきた。人材の確保や定着を重視する企業動向を背景に、前年並みの賃上げが実施されるとの見方が多い。

    日銀が12月に利上げに踏‌み切ったのも、本支店を通じたヒアリング調査などから、賃金上昇の持続に一定の確信を得たことがあるとみられる。

   春闘は27日に開催される経団連と連合のトップ会談をもって事実上スタートする。連合ベースの賃上げ率は24年に5.10%、25年に5.25%となったが、みずほリサーチ&テクノロジーズの井上淳・上席主任エコノミストは「高水準の賃上げを継続し得る環境は整っている」とし、26年についても5.2%程度の妥結を予想する。

    もっとも、賃上げを巡る議論の軸足は変化してきている。みずほリサーチの井上氏は「焦点は賃上げの有無から、実質賃金が上昇するような賃上げになるかに移ってきている」と指摘する。過去2年の春闘では高水準の賃上げが実現したものの、物価上昇に追いつかず、多くの家計が暮らし向きの改善を実感できていなかった。

    こうした問題意識のもと、連合は26年の春闘方針に「実質賃金の持続的な上昇を伴う賃上げノルムの確立を​目指す」と明記。一方、経団連も20日に公表した「経営労働政策特別委員会報告」で、「多くの働き⁠手が賃金アップをより実感できるよう、実質賃金の安定的なプラス化の実現が社会的に求められている」と指摘するなど、労使で‍目指す方向性は一致している。

    同日会見した経団連の長澤仁志副会長(日本郵船会長)は「事前の民間調査では5%前後の数字が出ている。そのあたりに落ち着いてくれたらありがたい」と述べ、「政府が講じる物価対策などである程度物価上昇率が抑えられるのであれば、間違いなく実質賃金はプラスに転じるはず」との見方を示した。

    <円安進行で痛み>

    家計のゆとりは、賃金と物価の動きがどうかみ合うかに左右される。2月の衆院選を前に、物価高の要因として為替市場の円安‍が再びクローズアップされている。   

    高市早苗政権が掲げる「責任ある積極財政」は、市場の一部に財政運営への警戒‍感を生み、為‌替相場は一時、1ドル=160円近辺まで円安が進んだ。26年は食品価格高騰の一服や物価高対策の効果が出るとみられている‍ものの、円安の長期化による輸入物価の上昇がインフレ圧力となりかねない。

    立憲民主党と公明党の衆院議員が合流する新党「中道改革連合」は基本政策で、「行き過ぎた円安を是正し、食料品やエネルギーなど生活必需品の物価を引き下げる」とする方針を明記。高市首相は19日、衆院解散について記者会見し、軽減税率が適用されている飲食料品を2年間限定で消費税の対象としないことについて「検討を加速する」と表明した。

金融市場の専門家はこの現状をどうみているのか。みずほ銀行の唐⁠鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、インフレ抑制に向けて望ましいのは「円安の反転だ」と指摘する。そのためには「市場に根付いた拡張財政と金融緩和の継続期待を修正できるかがカギになる」と述べた。

    唐鎌氏は「⁠高市政権発足後の3カ月で行われたのは、日銀の利上げや比較的健全な予算‍編成だ。政策当局の実際の対応をありのまま伝え続ければ、市場の期待はいずれ変わる」と話す。「責任ある積極財政という言葉は捨てられなくても、インフレを容認しているわけではない。財政は前年比で見れば緊縮的で、日銀も利上げしているという説明を地道に重ねていくし​かない」とした。

ある経済官庁幹部は「この問題にシルバーブレット(特効薬)は存在しない。仮に即効性のある処方箋があれば、歴代政権ですでに実行されていたはずだ」という。その上で「賃金が上がってきていることをどのようなナラティブ(物語)にできるかが重要だ。現役世代を重視する政策姿勢を明確にし、『これから良くなる』との期待をつなぎ留められるかが問われている」と述べた。

(杉山健太郎 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

長期金利27年ぶり高水準、「動向を注視」と木原官房

ビジネス

自民党の鈴木幹事長、金利の上昇「強く注視」  

ワールド

トランプ氏の「平和評議会」、中国も招待

ワールド

豪下院、銃規制強化と憎悪犯罪対策で2法案可決 銃乱
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「耳の中に何かいる...」海で男性の耳に「まさかの生物」が侵入、恐怖映像と「意外な対処法」がSNSで話題に
  • 2
    「死ぬところだった...」旅行先で現地の子供に「超危険生物」を手渡された男性、「恐怖の動画」にSNS震撼
  • 3
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で国境問題が再燃
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 9
    AIがついに人類に「牙をむいた」...中国系組織の「サ…
  • 10
    DNAが「全て」ではなかった...親の「後天的な特徴」…
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 5
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中