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アングル:長短金利差の拡大取引、日米欧で再開か 財政状況を注視 

2025年10月09日(木)17時44分

 10月8日、債券市場は米国、ユーロ圏、日本の財政状況を引き続き注視しており、最近の超長期国債の利回り低下は一時的となるかもしれない。写真は2021年4月、都内で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Stefano Rebaudo

[8日 ロイター] - 債券市場は米国、ユーロ圏、日本の財政状況を引き続き注視しており、最近の超長期国債の利回り低下は一時的となるかもしれない。今年人気を集めた利回り曲線(イールドカーブ)の長短金利差拡大、つまり「スティープ化」取引に対する関心が再び高まる可能性がある。

投資家は、財政支出を増やす、あるいは財政規律を十分に引き締めていないと見られる政府に対して迅速に反応し、長期国債を売却して長期金利を押し上げ、いくつかの国で借り入れコストが数十年ぶりの高水準に達した。しかしながら、短期の国債に対してはより寛容な姿勢を示している。

6日は不安定な政治情勢が市場を揺さぶり、日本の超長期国債の利回りは過去最高を更新し、フランス国債の利回りも16年ぶりの高水準に接近した。一方で期間が短めの国債の利回り上昇は控えめだった。

<財政への圧力>

こうした動きは「イールドカーブのスティープ化」と呼ばれ、今年の債券市場で突出した取引となっている。ドイツ国債は10年物と30年物の利回りのスプレッドが36ベーシスポイント(bp)拡大し、米国債は37bp、日本国債は40bp程度拡大した。これらのスプレッドは9月初めにピークに達した後で、現在はいったん縮小している。

ドイツは今年初め、インフラと防衛に支出を増やすため財政規則を見直した。政府債務の国内総生産(GDP)に対する比率を60%から70%に引き上げると見込まれている。隣国フランスは政治危機で混乱が生じており、財政がその中心的な課題となっている。

そうした中で、オランダは制度改革によって年金基金が長期債を大量に保有する必要がなくなる。ユーロ圏債券に対する主要な需要源が減少すると予想されている。

米国、ユーロ圏、日本、その他の国々の国債発行当局はこうした事態に対応し、期間の短い国債の発行を増やして長期債の発行を削減することで、長期債のボラティリティと下落を回避しようと取り組んでいる。

米債券運用会社パシフィック・インベストメント・マネジメント・カンパニー(PIMCO)のポートフォリオ・マネージャーのコンスタンティン・ファイト氏は、これまでのスティープ化は中央銀行の政策変更によるところもあったと説明。「当社はドイツと米国について、依然としてスティープ化取引を好んでいる。ただ、カーブはほぼ正常化したためエクスポージャーを減らした」と述べた。

<米国のリスク>

米国の議論は国債発行の増勢だけにとどまらない。現在のコンセンサスでは関税に伴う物価上昇圧力は一過性に終わる見通しだが、それでもインフレ懸念と米連邦準備理事会(FRB)の独立性を巡る懸念はある。

いずれの懸念もイールドカーブを一段とスティープ化させる可能性がある。FRBがトランプ大統領による利下げ圧力に屈したと見なされる場合、インフレ期待と利回りを押し上げかねない。

PIMCOなどの見方では、米国債のイールドカーブは、FRBの独立性が維持され財政赤字が米政府の想定に近い水準にとどまる、つまり一段のスティープ化は限られそうだとの前提を反映している。

<日本の超長期利回り上昇>

米国の政府債務がGDPの約120%、日本の政府債務がGDPの230%に達しているにもかかわらず、依然として超長期国債への投資意欲はある。

PIMCOのコンスタンティン氏は「日本国債のスティープ化は生命保険会社向けの新しいソルベンシー・マージン比率規制によるところが大きい。生保各社は従来ほど大量の長期債を保有する必要がなくなっている」と述べた。「日本国債の10年物と30年物のカーブは世界的な文脈で見ても異例であるだけでなく、過去の国内のカーブに照らしても妥当な水準を大きく上回っている」という。

ロイター
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