アングル:中国自動車市場、価格競争激化で業界再編の懸念も

5月27日、 中国自動車業界で価格競争が激化し、長らく予想されてきた業界再編が起きるのではないかとの懸念が一段と高まっている。写真は2023年4月、上海オートショーに展示されたBYDのシーガル(2025年 ロイター/Aly Song/File Photo
Norihiko Shirouzu
[27日 ロイター] - 中国自動車業界で価格競争が激化し、長らく予想されてきた業界再編が起きるのではないかとの懸念が一段と高まっている。
世界最大の自動車市場である中国では、電気自動車(EV)最大手、比亜迪(BYD)が20を超える車種で新たな値引きを発表したほか、別の自動車大手幹部が価格競争への懸念を公然と口にしたことから、大手自動車株が26日に軒並み下落した。
BYDは最安モデルであるハッチバック「シーガル」の最低価格を6万9800元(約140万円)から5万5800元に引き下げた。
コンサルティング会社、サイノ・オート・インサイツのマネジングディレクター、トゥ・リー氏はBYDの値下げなど一連の動向について、弱小企業が価格の下落スパイラルによる損失に持ちこたえられなくなる「転換点」の兆候かもしれないと指摘。「今年後半には血の海となる恐れがある。新興のNetaやポールスターなど、既に危機的状況にある弱小EVメーカーを最終的に押し倒す最初のドミノになりかねない」と語った。
自動車大手、長城汽車の魏建軍会長は23日、経済誌のインタビューで、中国の自動車業界は価格圧力によってメーカーとサプライヤーの利益が圧迫されており、不健全な状態にあると警告。債務危機の末に昨年破綻した不動産大手、中国恒大集団を引き合いに、「自動車業界の恒大集団は既に存在しているが、まだ破綻していないだけだ」と述べた。
市場のストレスを告げる兆候がもう一つある。ロイターは、走行距離ゼロの実質的な新車が「中古車」として販売されている現象を、中国商務省が調査していると報じた。事情に詳しい筋によると、これはメーカーとディーラーが高い販売目標を達成するための手法だ。
香港に上場するBYDや吉利汽車、蔚来汽車(NIO)、リープモーター・テクノロジーなどの自動車株は26日に軒並み大幅下落した。
中国ではEV市場の急成長にひかれ、過去10年間で数多くの新興企業が業界に参入。価格競争が激化し、大半の企業が多額の損失を出している。
調査会社ジャト・ダイナミクスのデータによると、現在中国で事業を展開する自動車メーカー169社のうち、過半数が市場シェア0.1%未満だ。この過当競争ぶりは20世紀初頭の米国の自動車業界を想起させる。当時米国には100社を超える自動車メーカーがフォードなどの大手と張り合おうとしていたが、その後淘汰された。
リー氏によると、価格戦争は約3年間続いている。自動車メーカーはかつて、運転支援システムなどの先進機能を搭載することでプレミアム価格を享受していたが、今ではこうした機能を標準装備するメーカーが増えている。
中国政府当局は先週、一部の業界で競争が過熱し、自動車などの製品を原価割れ価格で販売する企業まで現れて公正な競争を妨げていると警告した。
長城汽車の魏会長は23日のインタビューで、長期化する価格戦争が自動車サプライチェーンに悪影響を及ぼしているとも指摘。メーカーからの価格引き下げ圧力により、一部のサプライヤーが倒産の危機に瀕していると述べた。
「過去数年間で、一部製品の価格は22万元から12万元に下がった。10万元も値下げして品質を保証できるような工業製品があるだろうか」と魏氏は言う。
ただ、中国自動車業界の再編は以前から予想されてきたが、市場はむしろ拡大を続けていると、コンサルタントのマイケル・ダン氏は指摘。「BYDの値下げは、一部の弱小企業を市場から追い出すだろう」が、「ここでは敗者が出るたびに、新たな小米科技(シャオミ)や華為技術(ファーウェイ)が市場に飛び込んで来る」と期待を示した。