ニュース速報
ビジネス

アングル:替えがきかないテスラの顔、マスク氏後継者探しは至難の業か

2025年05月02日(金)19時06分

5月1日、 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、米電気自動車(EV)大手テスラの取締役会がイーロン・マスク最高経営責任者(写真)の後任候補を探していたと伝えた翌日、取締役会はマスク氏への高い信頼は変わらないと強調し、あわてて火消しに動いた。ホワイトハウスで3月撮影(2025年 ロイター/Carlos Barria)

Rachael Levy Abhirup Roy Isla Binnie

[1日 ロイター] - 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が、米電気自動車(EV)大手テスラの取締役会がイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の後任候補を探していたと伝えた翌日の5月1日、取締役会はマスク氏への高い信頼は変わらないと強調し、あわてて火消しに動いた。

背景には、トランプ政権の「政府効率化省」を率いるマスク氏がテスラの社業に割く時間が乏しくなり、右派を支持する政治活動にも勤しむ一方、テスラの販売台数と利益が急激に落ち込んでいることに対する投資家の不安感が強まっていることがある。

テスラのロビン・デンホルム会長はWSJの報道を全面的に否定した。ただデンホルム氏自身も、高額の報酬やマスク氏に株主への説明責任を果たさせることができなかった点で強い批判を浴びている。

今回の騒動は、テスラ取締役会がマスク氏の処遇を巡って抱える独特のジレンマを浮き彫りにした。つまりマスク氏がほかに5つの企業を監督し、最近ではトランプ政権の政策に首を突っ込んで、政治的にはリベラル色が強いテスラの顧客層にそっぽを向かれているという問題だ。

それでもロイターが株主やアナリスト、テスラ経営陣の間で交わされるマスク氏の扱いに関する意見交換の内容を知る3人の関係者らに取材したところ、テスラの命運はCEOとしてのマスク氏個人のキャラクターに握られている部分が極めて大きく、CEOの交代構想が浮上するだけでも同社にとって多大なリスクを生むことが分かった。

現在の収益力を大きく超えるテスラの時価総額のおよそ4分の3は、マスク氏が約束しながら何年も事業を本格的に立ち上げられていない自動運転技術と人型ロボットに由来する、というのが多くのアナリストの見立てだ。

テスラに対して強気の見方をする人々は、これらの分野では特に中国メーカーとの国際的な競争が激化しているにもかかわらず、唯一無二の天才マスク氏なら成果を出してくれると考えている。

しかしそうした成長を十分な速さで実現できそうにはない。テスラ本業の自動車部門の業績が悪化を続けているからだ。とりわけマスク氏とトランプ氏の政治的行動が大きな弊害だと証明された欧州で、EV販売が急激に減少している。

2人の関係者はロイターに、テスラ内部の人々は何年も前からマスク氏に、同氏の代わりに日々の業務をこなす経営トップを採用し、自身は名目上のリーダーとして社に残るようさまざまな形で提案してきたと明かした。

これはマスク氏が率いる他の企業の経営方式で、特に宇宙企業スペースXではグイン・ショットウェル氏が社長兼最高執行責任者(COO)として活躍している。

ところがマスク氏は、テスラも同じ方式に変更するのを一貫して拒絶してきたという。

テスラの株主でもあるザック・インベストメント・マネジメントの顧客ポートフォリオマネジャー、ブライアン・マルベリー氏は、テスラのCEO交代ということになれば、マスク氏が抱えてきた膨大な仕事量や財務面の穴を埋め、EV事業の収益力を何とか維持しながらロボタクシー(自動運転タクシー)のネットワーク構築に向けた取り組みを続けるという非常に厳しい試練が取締役会に降りかかると指摘。マスク氏の影を感じさせない、独自の個性を備えた人物の登場が必要になると付け加えた。

やはりテスラに投資しているディープウォーター・アセット・マネジメントのマネジングパートナー、ジーン・ミュンスター氏は、マスク氏を別の人物に替えるのは実質的に不可能とまで言い切る。

ミュンスター氏は「マスク氏はテスラよりも大きな存在かと聞かれれば、答えはその通りだ」と述べた。

<ウェルチ氏との対比>

後継者が誰であっても、マスク氏を取締役の1人として、また筆頭株主として厚遇しなければならないかもしれない。現在テスラにおけるマスク氏の持ち分は13%だ。

一方、マスク氏がテスラの軸足を長年目指してきた巨大EV企業からロボタクシー、ロボット、人工知能(AI)に移行させた過去1年で、取締役の数が減っている。

3人の関係者の話では、去って行った経営幹部の中には、中核の自動車部門をそれほど無理やり重視しなくなることに抵抗してきた人々も含まれている。

そうした面々の一部は取締役会に懸念を訴えたものの、取締役会はマスク氏の味方をしたという。

テスラ株主のフューチャー・ファンドでマネジングパートナーを務めるゲーリー・ブラック氏はXに、テスラにはマスク氏に代わり得る生え抜きの経営幹部が見当たらないと投稿。「(テスラ)内部で技術、戦略、実務面での幅広い能力を備えた向きは誰もいない」と述べた。

テスラに投資しているジェームズ・マクリッチー氏は、そもそもテスラの幹部人事や高額報酬にはマスク氏が影響力を及ぼしている以上、取締役会がマスク氏の意に反した行動を取れるかどうかは疑わしいと話す。

マクリッチー氏は、マスク氏をCEOから退任させることのリスクもあると認め、マスク氏はかつて投資家から「神様」とまであがめられたゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ元CEOに似ているとの見方を示した。

「ウェルチ氏が去ったGEは砂上の楼閣になった。テスラの場合も恐らく同じになると思う」と予想している。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中