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焦点:ECBがハト派メッセージ、市場は利下げ幅拡大も視野に

2025年04月18日(金)09時26分

欧州中央銀行(ECB)が4月17日に発したメッセージを受け、市場参加者は追加利下げを確信し、貿易摩擦問題がユーロ圏経済に一段と打撃を与えるようなら利下げ幅が拡大するとの見方を強めている。15日、独フランクフルト証券取引所で撮影(2025年 ロイター)

Yoruk Bahceli Dhara Ranasinghe

[ロンドン 17日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)が17日に発したメッセージを受け、市場参加者は追加利下げを確信し、貿易摩擦問題がユーロ圏経済に一段と打撃を与えるようなら利下げ幅が拡大するとの見方を強めている。

ECBはこの日開いた理事会で、政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き下げて2.25%とすることを決めた。既に低調で、トランプ米大統領が打ち出した関税措置がもたらす荒波に直面しつつあるユーロ圏経済をてこ入れする狙いだ。

トレーダーがECBからハト派的なメッセージが出されたと受け止めため、ユーロは軟化し、ユーロ圏の国債利回りは軒並み急低下した。

ECBは「際立った不確実性」を生み出した貿易摩擦に起因する経済見通しの悪化を強調するとともに、声明文から「引き締め的」という文言を削除した。

こうした表現修正は通常なら利下げペースの減速とみなされるが、ラガルド総裁がそれを打ち消すような発言をした。経済的なショックに見舞われている間は、正確な計測が不能な中立金利に対するECBの政策スタンスを評価することに「意味はない」と述べたのだ。

ラガルド氏は、数週間前であれば複数の理事会メンバーが利下げの一時休止を主張していただろうが、結果的に全会一致で利下げが決まったのは、政策担当者が経済成長に付随するリスクをいかに深刻にとらえているかの表れだと説明している。

バークレイズのユーロ圏金利戦略を統括するローハン・カンナ氏は、これらの材料を総合すると、必要なことを積極的に実行しようとするECBの意思が見えてくると指摘した。

LSEGのデータによると、トレーダーが見込む6月の利下げ確率は、理事会前の約60%から75%前後に切り上がった。ICAPで織り込まれた6月利下げ確率はおよそ90%に達している。

年末までに予想される政策金利引き下げ幅は、LSEGのデータで55bp弱から65bp前後まで広がっており、利下げ回数はあと2回ではなく3回になりそうだと想定されていることが分かる。

3月の前回理事会が終わった後では、ドイツの歴史的な財政政策転換がユーロ圏の経済成長と物価上昇率を押し上げるとの見方が広がり、ECBの年内利下げはあと1回弱にとどまると予想される局面もあった。

金融政策見通しを敏感に反映する2年国債利回りを見ると、ドイツは最大7bp低下し、イタリアでは2022年以来の低水準を記録した。

<インフレは懸念されず>

米関税が物価に及ぼす影響は、成長への影響ほど明白ではない。ただトランプ氏が「相互関税」の詳細を発表して以降の市場動向は、ユーロ圏でディスインフレが一層進む展開を示唆している。

まず2月に対ドルで等価近辺まで安くなっていたユーロは、3月初め以降で9%余り上がって足元は1.135ドルで推移しているので、輸入物価は抑制されるだろう。ユーロの実効為替レートは過去最高値で取引されている。

原油価格は今月に入って10%下落しているし、欧州の輸入において最大の比率を占める中国は関税による痛手が最も激しい。

ユーロ圏のインフレは市場も懸念していないもようで、ECBが重視する長期の予想物価は3月の2.2%から、ECBが目標とする2%に鈍化している。

さらに物価上昇率が2%を割り込むリスクを強調するエコミストもいる。例えばシティはこの日の理事会前に、来年の物価上昇率は1.6%、27年でも1.8%にとどまるとの見通しを示した。

一方でECBの政策金利に関する予想は非常に幅が広く、先行きの不確実性がいかに大きいかを物語る。

実際複数の関係者はロイターに、何人かの理事会メンバーは6月利下げの可能性が大きいとみている半面、別のメンバーはより多くの経済指標を確認するまでは到底判断できないという立場だと明かした。

市場関係者の間でも意見が分かれている。アビバ・インベスターズのポートフォリオマネジャー、スティーブ・ライダー氏は、現在市場が織り込む金融政策見通しには利下げ幅が予想より小さくなるリスクが反映されている点から、同社は欧州債に対して中立姿勢になっていると述べた。ノルデアは、ECBの追加利下げはあと1回、25bpだけになると予想する。

しかしバークレイズは、ECBが10月までに政策金利を1.25%に引き下げるとの想定で、市場のコンセンサス以上に利下げが進むと主張している。

ピクテ・ウエルス・マネジメントのマクロ経済調査責任者を務めるフレデリック・デュクロゼ氏は、ユーロ圏の景気後退入りは同氏の基本シナリオではないと断りながらも、本当に景気後退になればより大規模な対応が求められると警告した。

ロイター
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