ニュース速報
ビジネス

インタビュー:日本株に慎重、ROEに改善余地=ハリス・アソシエイツ副会長

2023年11月30日(木)15時04分

Tomo Uetake

[東京 30日 ロイター] - 「バリュー(割安)株投資」で知られる米ハリス・アソシエイツで、世界株式の最高投資責任者(CIO)を務めるデイビッド・ヒーロ副会長はロイターとのインタビューで、日本株に慎重なスタンスを示した。欧州株などと比べて割安感が薄く、株主資本利益率(ROE)にはさらなる改善余地があると指摘した。

ハリス・アソシエイツは、仏ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ傘下の米運用会社(本拠地はシカゴ)で、9月末時点の運用資産残高は950億ドル(約14.2兆円)。インタビューは29日に東京で実施した。主なやり取りは以下の通り。

──世界株式の地域別の最新投資判断は。

「米国を除く世界株式のポートフォリオでは、欧州をオーバーウェイト(強気)、日本はアンダーウェイト(弱気)している。とりわけ、欧州の金融株を選好している」

「日本株については、2011年の東日本大震災で株価が急落したことをきっかけにバリューを見出し、14年ごろまでオーバーウェイトしていた。一時は世界株式ポートフォリオの日本株組み入れ比率は23─24%もあった」

「その後アベノミクス相場で株価が上昇したところで徐々に、4─6年かけて売却に動き、日本株の比率はほぼゼロとした。直近の組み入れ比率は3─4%程度で、ベンチマーク対比でアンダーウェイトと言える」

「我々のバリュー投資では企業のクオリティと価格をみて投資決定を行うが、現在は日本よりも欧州、特にドイツ株はROEやPER(株価収益率)の尺度で見て大きなバリュー、つまり割安感がある」

──日本株は現在33年ぶりの高値圏にあるが、上値余地をどう見るか。

「(TOPIXや日経平均などの)インデックスではなく、個別株レベルの話であれば、上値余地のある銘柄はもちろん見つけられる」

「当社はボトムアップで銘柄選択を行うアクティブ運用の投資家で、幸いマーケットを丸ごと買う必要はなく、一定の独自基準をクリアする銘柄だけを買うことが可能だ。全部ではないが変化に前向きな企業もあり、クオリティの面では良いモメンタムがみられる。ただ実際に投資するかの判断は株価水準との兼ね合いだ」

「アクティブ投資は砂金採りのようなもので、泥や小石を取り除いて金だけを取り出すため、多くの企業訪問やリサーチといった手間をかける。ただ日本については、砂金採りの環境が改善しつつある。我々の求める『金』はさほど深くないところにあり、日も差して見つけやすくなった、とでも言えようか」

──どのようなセクター、銘柄に魅力があるか。

「ITサービス、特にDX(デジタル・トランスフォーメーション)は大きなテーマだ。同分野では富士通に投資している」

「我々の小型株ポートフォリオでは、スギホールディングス、サンドラッグといったドラッグストア株に多く投資している。事業内容も優れており成長性も高く、株価水準も魅力的だ」

「人材サービス関連ではリクルートホールディングス、パーソルホールディングス、テクノプロ・ホールディングスに投資しており、日本市場には十分な投資機会がある」

「一方、円安の進行で輸出関連株には投資家が集中していて割安感がない」

──市場は来年、日銀が金融政策の正常化に動く可能性を意識している。

「マイナス金利解除の時期などは分からないが、方向性は1つだけだ。ただそれが我々の投資機会になるわけではない。日本の銀行株も保有しているが、そもそも企業評価の際に正常な(金利のある)環境を想定して本源的価値を算定しており、日銀の政策修正があっても投資判断への影響は無い」

──日本株投資の際の為替ヘッジについて。

「為替ヘッジの有無はその都度判断している。(10年前に)ドル円が78円の時にはヘッジしていたが、150円の今はヘッジは付けていない」

「為替は短期の動きを予測することは難しいが、水準が行き過ぎ感があるかは判断可能だ。そして現状は、ドルが大半の通貨に対して高過ぎるとの判断だ」

──日本株に強気になるために足りないものは。

「東証、そしてGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの株主から、企業に資本効率改善、バランスシートの改善を求める一層の圧力がかかること、これが1番だ。決して難しいことではない。欧米に依然見劣りするROEには大いに改善余地がある」

「株式持ち合いは時代遅れで大きな問題だ。直近のトヨタグループなどの持ち合い解消の動きを歓迎している」

「もう1つは割安さ。投資判断は相対評価なので、現在選好する欧州株が高くなり過ぎたような場合にもあり得るだろう」

(インタビュアー:植竹知子 編集:橋本浩)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中