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焦点:インバウンド関連株が減速、円高で「爆買い」期待が後退

2016年02月17日(水)12時33分

 2月17日、インバウンド関連株が減速している。写真は買い物をした中国人旅行者。都内で4日撮影(2016年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 17日 ロイター] - インバウンド関連株が減速している。対人民元で円高が進行しているほか、中国人観光客の1人当たり旅行支出の伸び率が頭打ちとなり、「爆買い」期待が後退しているためだ。ただ、全体の訪日外国人客数の増加傾向は続いており、世界景気減速の逆風を受ける外需関連株との比較では、依然として優位性を保っている。利益確定売りが一巡すれば、再び物色の矛先が向かうとの見方もある。

<円高の影響を懸念>

年初来のインバウンド関連株の下落率は、16日時点で三越伊勢丹ホールディングス<3099.T>が17.4%、マツモトキヨシ<3088.T>が18.2%、コーセー<4922.T>が20.4%、H2Oリテイル<8242.T>が21.7%、松屋<8237.T>が30.4%。日経平均<.N225>の15.6%を超える下げとなっている。

売り材料の1つは、対人民元での円高だ。昨年8月の「中国ショック」以降、元安/円高が進行。当時の20.1円台から、直近では17.4円台まで約13%円高が進行。14年10月以来の水準を付けた。

リスクオフの円高が年初から進行するなかで、中国人観光客による消費に陰りが出ないか不安が広がっている。

実際、中国からの観光客の1人当たり旅行支出は、伸び率がピークアウトしつつある。

観光庁によると、前期比伸び率は昨年4─6月期の34.7%増から、7─9月期が18.8%増、10─12月期は18.7%増と徐々にスピードダウン。「高額商品から化粧品や生活必需品などに消費の対象がシフトしている」(外資系証券)とみられており、その動きが伸び率鈍化につながっている可能性を指摘する声が浮上している。

<モノ消費に減速の気配>

企業決算にも、インバウンド消費の減速感が表れ始めている。化粧品大手の資生堂<4911.T>は、株価の年初来の下落率が9.3%にとどまっているが、9日に発表した2016年12月期の連結営業利益は、380億円と実質14.3%減(9カ月決算だった前期を12カ月に調整)の見通し。市場ではインバウンド需要の減速が警戒されている。

象印マホービン<7965.T>は、免税モデルの炊飯ジャーの販売数量について、12月と1月の直近2カ月累計で前年比25%程度の減少となった。

同社は減少の背景として「訪日外国人観光客の旅行の目的が変わりつつあり、購買対象も(より安価な)日用品などにシフトしている」(広報部)と分析している。

時計製造・販売の国内大手、セイコーホールディングス<8050.T>の中村吉伸社長は、9日の決算会見でインバウンド関連消費について、昨年夏ごろの爆発的な伸びは収まった印象があるとの見方を示した。

ある国内証券のアナリストによると、中国人の部下が今回の春節で帰省した際、日本国内のマツモトキヨシに陳列されていた人気商品が、地元で当たり前のように販売されていたと聞かされた。「日本旅行のリピーターは温泉旅行など新たな体験などを求めるが、モノの消費に関しては、やはり伸びが小さくなっていきそうだ」という。

<外国人観光客は増加中>

もっとも、外需関連株との相対感では、依然有望との見方もある。中国人観光客による「爆買い」の最大のトリガーは、日本政府によるビザ発給要件の緩和。中国の景気減速懸念が広がった昨年8月以降も、日本国内への中国人観光客は増加基調を続けている。

日本政府観光局が発表した今年1月の訪日外客数は、前年比52.0%増の185万2000人。単月としては昨年7月の191万8000人に次ぐ過去2番目の水準だった。特に中国からは前年比2.1倍の47万5000人と、大きな伸びを示している。

SMBC日興証券・チーフエコノミストの牧野潤一氏の試算では、元に対し1円(5.6%)円高になると、中国人のインバウンド消費は年率6.8%(590億円)押し下げられるという。

15年の訪日外国人の旅行消費額は、全国籍・地域ベースで3兆4771億円(観光庁の統計)。このうち中国は1兆4174億円と4割を占める。単純計算すれば、昨年8月からの円高分(約2.7円)は1600億円弱の影響にとどまる。

足元では対人民元で円高が進んでいるが、2012年11月半ばのいわゆるアベノミクス相場開始以来で比較すれば、依然35%程度の円安水準だ。

さらに過去1年の株価騰落率をみると、トヨタ<7203.T>(マイナス19.8%)や日立<6501.T>(同37.9%)などが日経平均(同10.8%)を超える下落率となる一方、インバウンドではコーセー(プラス64.2%)、マツモトキヨシ(同32.0%)など、大幅なプラスとなった銘柄も多い。

昨年、大きく上昇したことの反動で利益確定売りが出やすくなっているともいえ、売り一巡後は再び物色される可能性もある。

三井住友アセットマネジメント・シニアストラテジストの市川雅浩氏は、インバウンド関連株は「円高の影響など、一時的にネガティブ材料を織り込む形となった。以前の勢いはないにせよ、まだ物色できるセクター」と話している。

(長田善行 編集:伊賀大記)

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