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新たな株式購入枠、「政権サポートでない」=黒田日銀総裁

2015年12月18日(金)18時55分

 12月18日、日銀の黒田東彦総裁(写真)は金融政策決定会合後の会見で、同日打ち出した設備・人材投資に積極的な企業を支援する形の株式購入拡大は、安倍晋三政権の「サポートではない」と明確に否定した(2015年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 18日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は18日の金融政策決定会合後の会見で、同日打ち出した設備・人材投資に積極的な企業を支援する形の株式購入拡大は、安倍晋三政権の「サポートではない」と明確に否定した。

今回は国債の年限長期化など一連の細かな措置を打ち出したが、あくまで従来の金融緩和を円滑に進めるためで追加緩和ではないと説明。経済・物価が下振れれば「思い切ったこと(追加緩和)をやる」と述べた。

日銀は今回、年間80兆円の国債買い入れを柱とする従来の「量的・質的緩和(QQE)」は維持した格好で、保有国債の年限長期化(7─10年から7─12年)、REITの買い入れ限度額緩和(一銘柄当たり発行残高の5%から10%)などを打ち出した。日銀の巨額国債買い入れで金融機関の担保が不足しているのに対応し、外貨建て証書貸付債権の適格担保化や、住宅ローン債権の一括担保としての受け入れも行う。

既に日銀はQQEで年間3兆円のETF(上場投資信託)を買い入れているが、今回新たに設備・人材投資に積極的な企業の株式を対象としたETF(当初はJPX日経400連動ETF)を年間3000億円買い入れる枠を来年4月に設定する。日銀は、バブル崩壊後の局面で買い入れた銀行保有株を来年4月以降、売却を始める予定だが、その売却額(年3000億円)と合致する形だ。

黒田総裁はETF買い入れ枠の新設について、「安倍内閣が進める成長力強化や官民対話と平仄が合っているが、政権のサポートではない」と説明した。

<「追加緩和でない」、やる時は「思い切って」>

国債の年限長期化は、これまでよりも長い年限の国債金利を押しつぶすため、事実上の緩和強化となる。しかし、総裁は今回の措置について、経済や物価が日銀の想定より「下振れるリスクの顕在化に対応したものでない」として「追加緩和ではない」と強調。国債など「資産買い入れの円滑化と緩和効果の浸透のための措置」だと説明した。

すでに日銀は国債の発行総数の3割を買い入れており、債券市場では現行のQQEがいずれ限界を迎えるとの見方も強い。黒田総裁は、従来は残存期間の上限に近づくと買い入れが行き詰るとの思惑を呼んでいたため、今回「予防的、予備的に(延長が)望ましいと判断した」 と説明した。

今回の日銀発表後、為替・株式市場は大きく乱高下し、株式市場は結果的に大幅な安値引けとなり、市場では「戦力の逐次投入」回避を掲げてきた黒田日銀の変節との見方も広がった。黒田総裁は「追加緩和しなければならない時は、当然思い切ったことをやる」と力説。今回の措置は、緩和長期化やさらなる追加緩和に備えた措置との趣旨を説明した。

<消費増税は「政府が決めること」>

足元バレル30ドル台で推移する原油価格は、日銀の物価見通しの前提(50ドルから65ドルに上昇)を大幅に下回り、2%目標達成に黄信号がともっているが、総裁は原油価格について、次回物価見通しを作る「1月にならないと分からない」と答えた。

また、12月の日銀短観が示した企業の物価見通しは、9月の前回調査よりも下方修正されているものの、企業や家計の物価観・インフレ期待が「今の時点で大きく下方に振れているということはない」と述べた。

冬のボーナスや来年の賃上げについては、「2%の物価上昇に不可欠」として、注視する姿勢を強調した。

専修大の野口旭教授など安倍首相に近い経済学者が2017年4月に予定されている消費税率10%への引き上げの前提条件として物価2%達成を掲げている点についてロイターが所見を求めると、「消費増税は政府・国会で決めること」とコメントを控えた。

*内容を追加しました。

(竹本能文、伊藤純夫)

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