コラム

学生時代から政治に興味...安野貴博がいま政治の道を選んだ理由とその勝算 「やりたかったことにテクノロジーが追いついてきた」

2025年08月22日(金)07時50分

安野 2つ目は、これは隣の台湾の事例をすごく参考にしているのですが、国民が直接こういう法案とか政策をやって欲しいという声を上げられるプラットフォームを作って、それを元に政策立案に活かしていく流れを作っていきたいと思っています。

 (台湾の元デジタル担当大臣の)オードリー・タンさんの「Join*」ですよね。もし日本で安野さんが中心になってそれを作っていくとして、国政に取り入れられるのに何年ぐらいかかりそうですか。

*Join(ジョイン):2015年に公開された台湾の行政プラットフォーム。オンライン嘆願書のような仕組みだったところを元デジタル担当大臣オードリー・タン(唐鳳)氏が改革。国民の提案と賛同、それに対する行政の回答が可視化され、意思決定プロセスの透明性を確保したことが高い評価を得ている

安野 国政にたどりつくのは、正直、結構かかると思っているんですよ。順番としては、まず自分の政党のチームみらいが使い、その次に地方自治体なんじゃないかと思っています。市長とか町長がやりたいって言ったらその地域でできるものという形で、まずは小さく始めようかなと思います。で、その次に他の政党、最後に国政っていうところに来ると思うので、国政まで入るには5年ぐらいかかるかもしれないですね。

 でも「結構かかるぞ」と言っても、ITの世界だと5年なんですね。それが30年とかではないと。

安野 30年はかからないと思いますね。基礎自治体のレイヤーで使われて一定成果を出せれば、他の自治体もどんどん使おうってなっていきますし、地方自治体で普通に使われてるのであれば、なんで国では使わないのっていう話になっていくと思います。

それに使っている技術自体は、台湾で2015年からできているものなので、最先端の技術を使いこなすというものでもないんです。単純に行政側とか政治家が意思決定すれば入れられるタイプの技術なので、技術的ハードルはもうないと思っています。

 去年、安野さんが関わってらっしゃったブロードリスニングツールとしての「Talk to the City*」を発展させる感じなんですか。

*Talk to the City:米NPO法人AI • Objectives • Instituteが提供しているオープンソースソフトウェア

安野 あれもやり方の1つだと思うんですけれど、台湾のうまくいっている事例をそのまま持ち込むのが第1ステップとしてはいいのかなと思っています。

akane_anno1.jpg

安野氏と筆者 ニューズウィーク日本版-YouTube

 そうなんですね。もう一方の政治のお金の透明化の方ですが、スウェーデンではクレジットカードを配って、政治資金をこれで使ってくださいってなっていると伺っています。

安野 閣僚の人に国の発行したクレジットカードを渡して、資金を全部これで切ってくださいとなっているんです。そうすると毎月毎月、利用明細が出てくるので、それが自動的に公開されていく仕組みになっています。そこを2025年の日本であれば、もう少し今風な形でできるんじゃないかと。

スウェーデンでは30年前からもうやられてるので、30年遅れでキャッチアップしようっていうことですね。

 日本では閣僚、ひいては国会議員全員にクレジットカードを渡すというのはかなり大変だと思うんですけど、ソフトウェアを使って政党ごとに入力する場合、敷居は低いけれどズルができるのではないですか?

安野 ズルの部分はシステム連携がされていること、リアルタイムであることが強みだなと思っています。クラウド会計サービスもそうなんですけれど、クレジットカードとか銀行口座とシステム連携されているんですよね。

なので、使った瞬間にその数字がバコッと入る。で、それがバコッと世の中に公表される。もっとも、仕分け作業をしてから見せた方がいいんじゃないかという説もあるので、どこまでリアルタイムにできるかどうかはあるのですが、これがあると鉛筆を舐めて数字を変えるというのは相当にやりにくくなると思います。

もちろんエンジニアの目線からすると、ここをこういう風に頑張って変えれば不正はできるという穴はあると思うのですが、とはいえ今までよりも相当に詳しく相当に早く嘘がつけない形になるのは間違いないと思います。

 よく分かりました。ありがとうございます。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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