コラム

「エレキ少年」が「中二病」を経て「科学の根底を支える守護者」になるまで──産総研計量標準総合センター・臼田孝

2025年06月04日(水)17時40分

 臼田先生の研究の歩みと計量標準との関わりについて伺いたいのですが、先生は小さい頃から科学がお好きだったのですか?

臼田 この研究所の職員にはありがちなのですが、子供の頃はエレキ少年でした。中学、高校の頃になると、もう少し等身大のものに興味持つようになって、自転車を改造したり、バイクに乗ったりして。理系に進むというのは、自分にとって当たり前の選択でした。


usuda_profile.jpg 産業技術総合研究所計量標準総合センター・総合センター長
臼田孝(うすだ・たかし)
1962年長野県生まれ。諏訪清陵高等学校、東京工業大学卒、同大学院総合理工学研究科修士課程修了。新日本製鐵(現・日本製鉄)勤務を経て、1990年4月に通商産業省工業技術院計量研究所(現在の産業技術総合研究所)に入所。専門は振動計測、光波干渉計、物理センサの校正技術など。ドイツ物理工学研究所、フランス国立科学研究センター、国際度量衡局の各機関で招聘研究員を務め、2012年より国際度量衡委員。現在、同委員会幹事。


 それで東京工業大学(現・東京科学大学)に進まれたんですね。当時はどんな分野に興味があったのですか。

臼田 やはり、オートバイや自動車といった機械系ですね。その一方で、就職なんかを意識したときに、「果たして機械文明は人間を幸せにするのだろうか。害を撒き散らすだけなんじゃないか」というようなある種の「中二病」的な考えに至ったりして。

 科学と社会の関係で思い悩むなんて、立派じゃないですか。

臼田 確かに「社会課題系」の仕事を意識しました。今だったら、たとえば再生エネルギー系のスタートアップなんかも候補にあがったかもしれませんね。色々な選択肢を残しておきたいと思いながら新日鉄(新日本製鐵株式会社。現在の日本製鉄株式会社)に入って、その後、もう少し基本的なことをやりたいと考えて当時の通産省に研究者として入りました。

 工業技術院計量研究所に入られて。当時から計量標準に興味があったのですか?

臼田 大学院の時に精密計測をやっていましたから、「自分のやってきたことなんて、筑波の研究所ならば朝飯前で測っているんだろうな」なんて思っていました。でも当時は「計量標準とは何か」というのを深くは理解していなかったですね。

 ご専門はどんな研究だったのですか。

臼田 振動を測るというのを20年ぐらいやっていました。成果は自動車の安全性評価などに使ってもらったんですよ。

 まさに社会に役立つ研究をされていたんですね。 その後、どんな過程で計量標準に深く関わっていったのですか。

臼田 計量標準っていうものの本質を、だんだん理解してきたんだと思います。たとえば、このメダルはフランスでメートル法の公布を記念して配られたもののレプリカなんですが、女神がメートルの象徴の物差しとキログラムの象徴の分銅を持っています。そして裏返すと......。

 地球の上に天使がいて、天使は手に何かを持っていますね。

akane250603_usuda.jpg

レプリカのメダルを披露する臼田氏 筆者撮影

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人

ワールド

プーチン氏、対ウクライナ姿勢変えず 米制裁期限近づ

ワールド

トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命令 メ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story