コラム

「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAXA宇宙研・藤本正樹所長に聞いた「科学的に正しく怖がる方法」

2025年05月03日(土)10時50分

 ところで、「はやぶさ2」は小惑星リュウグウに到着し、サンプルリターンに成功しています。素人考えだと、小惑星に探査機をぶつけるよりも難しいことをやっていると思うのですが、JAXAはNASAのDART計画のような「小惑星の軌道を変える」プロジェクトには着手しないのですか? 「はやぶさ2」の拡張ミッションとして、26年に推定直径500メートルの小惑星トリフネに対してのフライバイ(近くを高速<相対速度で秒速5キロ>で通過しながら観測する予定)は計画されていますが。

藤本 小惑星の軌道をそらすためには、ぶつかったときどうなるかを予想しておかなければなりません。そのために小惑星の表面状態が分からなくてはならないので、JAXAは小惑星からのサンプルリターンとその分析などで貢献しています。何をやるかはJAXAとしてのプライオリティを意識していますね。

「はやぶさ」「はやぶさ2」などで探査機を精密に誘導することに成功してきた中で、JAXAがこれまでにフライバイをあまりやってこなかったのは、フライバイしたときにちゃんと観測するのって結構難しいということがあります。


 「はやぶさ2」の拡張ミッションは、もともと搭載しているフライバイは予定していなかった機器で観測しなければならないということですよね。

藤本 はい。ランディング(着陸)して近くでじっくり見るようにいろんなものを設計してるので、通りすがりにちゃんと観測するのは結構大変なんです。トリフネのミッションは何とかなると思いますが。

 「はやぶさ2」の拡張ミッションは、トリフネにフライバイした後、31年には推定直径30メートルと非常に小さい小惑星「1998KY26」に着陸する予定もあります。地球防衛にもつながる小惑星観測で、その他に今後予定されているミッションはありますか?

藤本 今後7年間でやることは大体決まっています。日本だけではできないことをヨーロッパと協働して行う26年に到着予定の探査機Hera(ヘラ:NASAが小惑星軌道変更試験を行った二重小惑星に向かう)や、アポフィスを至近距離で観測する予定の探査機RAMSES(ラムセス)のプロジェクトは楽しみですね。

これらは自分が副所長時代に仕込んできたことなのですが、今はさらに15年のスパンで物を考えようとしています。「はやぶさ2」や「XRISM(X線分光撮像衛星)」くらいのサイズのミッションで、また世界で最初に何かをやってみせたいです。5年に1回くらいのペースで、世界をあっと言わせたいですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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