コラム

推理小説の犯人当てシーンに影響? 「空気中の環境DNA」を調べれば「直前にいた人」が分かる

2024年04月16日(火)20時00分

実験2では、人のいる部屋といない部屋で、採取時間と収集フィルターの種類をいくつか変えて、空気そのものからヒトDNAを採取できるかどうかを調べました。

その結果、ヒトDNAは空気からでも収集できることは示唆されましたが、フィルターの種類によっては居住者が2時間滞在しても検出できないこともありました。収集フィルターによる空気からのDNA採取は、フィルターの性能や置く場所だけでなく、居住空間の状態や私物の存在、活動内容などに影響されやすいと考えられるため、今後のさらなる調査が必要といいます。

研究を先導したゴーレイ博士は、「犯罪者が法医学的な知識を持っていたとしても、DNAの環境への放出を完全に阻止できる可能性は非常に低い」と話しており、この新しいDNA鑑定法は部屋への訪問者だけでなく、だれが日常的に使っていたかの特定にも役立つ可能性がある、と説明します。

その場合、空気サンプルの分析結果は最近その部屋を訪れた者を示す可能性が高く、エアコンフィルターから得られる結果は、以前にその部屋を使用していた者も検出できる可能性が高いと言います。

犯罪捜査に実装されるまでには、もっと多くの実験を行い精度を高める必要があります。けれど近い将来、推理小説では防護服に身を包んだ犯人が、環境DNAからの犯行発覚を恐れて、犯行後に部屋の空気を入れ替えたり、他人の唾液を霧吹きで拡散したりするシーンが見られるようになるかもしれませんね。

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プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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