偽情報、プロパガンダ...シャープパワー対策のため民主主義国は自由をどこまで制限すべきか
欧州に見るファクトチェック体制強化策
まず挙げられるのが、ファクトチェック体制の強化である。
特に注目されるのは、EUが主導する「EUvsDisinfo」の取り組みである。これは、ロシア寄りメディアによる偽情報への対策を目的に創設されたオンライン・プラットフォームで、欧州対外行動庁の傘下で運営されている。
EUvsDisinfo上では、2万件近い偽情報の事例が公開され、特にウクライナ紛争の勃発以降は、膨大な戦争プロパガンダを分析・検証し、偽情報の傾向やトピックをリアルタイムで追跡するツールとしても機能している。
ファクトチェックには単なる事実確認にとどまらず、市民の情報リテラシー向上に向けた取り組みも含まれる。
例えば、フィンランドでは初等教育の段階から、偽情報の見分け方や情報の裏側にある意図を読み解く教育が行われている。
子どもたちは授業の中で、実際のフェイク動画を見ながらネット情報の信頼性について学び、複数の新聞記事を読み比べることで、時事問題を客観的に捉える訓練を受ける。
単に情報の真偽を見極めるのみならず、幼少時から批判的思考を培おうとする取り組みは、長期的な視点に立ったシャープパワー対策の実践例と言えよう。
「反浸透法」と「ロシア法」が示すもの
情報空間における対応に加え、シャープパワー対策を念頭に置いた制度構築も多くの国・地域で進められている。
特筆すべきは、2019年に台湾で成立した「反浸透法」だ。
これは、中国を念頭とする「域外敵対勢力」の指示や資金援助を受けて台湾で選挙運動や政治献金に関与する行為を刑事罰の対象としたものである。