最新記事
学校

公的調査では見えてこない、子どもの不登校の本当の理由

2024年9月11日(水)11時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

こうした生徒は、学校の側にすれば「無気力(怠惰)」と映るのかもしれない。文科省の調査(学校回答に基づく)で小・中学生の不登校の要因をみると、最も多いのは「無気力・不安」で全体の50.9%を占める。

しかしながら、同じ選択肢を用意して当事者に尋ねてみると、回答の分布はかなり違っている。小・中学生の不登校の要因について、文科省と民間団体の調査結果を並べてみると<表1>のようになる。

newsweekjp_20240911013310.png


文科省調査では「無気力・不安」が50.9%とダントツで多いが、不登校児の保護者を対象とした民間調査では12.8%でしかない。「教員との関係をめぐる問題」は、学校回答では1.8%だが、保護者回答では15.8%。

この表ではパーセンテージの差が大きい順に回答を並べていて、上にあるのは「学校<保護者」、下にあるのは「学校>保護者」の差が顕著であることを意味する。学校側は当人の性向や親の問題と考えているのに対し、当事者の側は学校の問題、ないしはいずれにも該当しない、もっと深い要因と考えているようだ。

政策立案の参考にされるのは学校回答のほうで、不登校対策として「当人の生活習慣の改善」「心理カウンセリングの充実」といったことが提言されるが、学校の在り方も問わねばならない。かといって、現場の教員に「自分の行いに自覚的であれ」とか「子どもと血の通った関係を作れ」とか説教を垂れるのはいただけない。

時代の変化についていけない学校

社会はすごい速さで変わっているが、学校はそれについていきにくい。時代錯誤の校則もはびこっていて、教員はそれを守らせる番人としての役割を負わされ、生徒との軋轢を生じさせている。多忙を極めている状況では、子どもと血の通った関係を作ろうにも作れない。まずは、基底の部分を見直すことだ。

もっと大きく言うと、社会の情報化が進む中、知識を授ける殿堂としての学校の立ち位置は揺らいでいる。この点が認識されたためか、不登校児への支援の最終目標は「学校に来させること」ではなく「当人の社会的自立」であると、公的文書にも明記されるようになった。そのための手段は多様であって、学校外の機関(フリースクール等)での学習や、インターネットを使った自学自習も積極的に評価されることとなった。

令和の時代の教育(学び)は、学校の教室という四角い空間だけで行われるものではない。

<資料:文部科学省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』(2022年度)
    信州居場所・フリースクール運営者交流会『不登校(傾向を含む)実態調査』(2023年)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中