最新記事
アフリカ

「ワグネル」もう1つの戦場...中東の「覇権争い」に、ロシアとエジプトまで絡んだスーダン紛争の奇々怪々

Really a Proxy War

2023年7月27日(木)19時01分
タラル・ムハマド

230801p32_SDN_02.jpg

停戦延長について部隊に説明する国軍トップのブルハン(中央右向き、拳を上げる) SUDANESE ARMED FORCESーREUTERS

サウジアラビアは今年3月、仇敵イランとの関係正常化に踏み切り、世界を驚かせた。さらにシリアに対しても融和路線に転じ、シリアのアラブ連盟復帰に道筋をつけた。

様変わりした中東の勢力図を背景に、サウジアラビアの事実上の指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子はUAEとの主導権争いに本腰を入れ始めた。

両国の競争激化の背景には地政学的な変化に加え、経済的な要因も働いている。サウジアラビアとUAEは近年、石油頼みの経済からの脱却を目指し、航空、スポーツ、インフラ建設など多様な産業分野で頭角を現しつつある。

両国の対立が表面化したのは09年。湾岸諸国は経済の統合と共通通貨の導入に向けて「GCC中央銀行」設立を目指していたが、どこに本部を置くかで意見が分かれた。

すったもんだの末、サウジアラビアに創設されることになったが、土壇場でUAEが理由も告げずに「イチ抜けた」と宣言。中央銀行も共通通貨も構想倒れに終わり、サウジアラビアとUAEの関係はさらにこじれて「代理戦争もどき」にまで発展した。

15年に始まったイエメン紛争で、当初UAEはサウジアラビアと共に反政府勢力のホーシー派と戦うイエメン政府軍を支援していた。しかし2国の足並みは次第に乱れ、イエメンの暫定政権を支援するサウジアラビアを尻目に、UAEは南部の分離独立派「南部暫定評議会」にてこ入れするようになった。

これによりUAEは、イエメンの多くの港湾と島々を管理下に置いて、バベルマンデブ海峡と「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東部地域への航行ルートを確保できた。

サウジアラビアとUAEは今や対米関係でも対抗意識をむき出しにしている。18年に起きたジャーナリストのジャマル・カショギ殺害事件をきっかけにサウジアラビアとアメリカの関係は急激に冷え込んだ。ムハンマド皇太子がカショギ殺害を命じたと、米情報機関が断定したためだ。

UAEはこれを奇貨として、サウジアラビアに取って代わり湾岸地域におけるアメリカの最も重要な軍事的パートナーになろうとした。

UAEは20年にアメリカの後押しで、イスラエルとアラブ諸国が国交を正常化する「アブラハム合意」に署名した(アメリカは現在、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化を実現させようとしているが、今のところサウジアラビアは乗り気ではない)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国

ワールド

ロシア中銀が0.5%利下げ、政策金利16% プーチ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中