最新記事

戦略

兵力の弱さ自覚したロシアと、それを見た中国は「サイバー戦争能力」の向上に走る

NEED CYBER OFFENSE

2022年9月23日(金)12時21分
ジョン・ラトクリフ(前米国家情報長官)、エイブラハム・ワグナー(サイバーセキュリティー専門家)
デジタルの爆弾

VICTOR DE SCHWANBERGーSCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES

<サイバー攻撃への依存度を高める「悪のビッグ4」に対し、アメリカは脆弱性を修正する「サイバー版マンハッタン計画」で臨むべき>

※2022年9月27日号(9月20日発売)は「ウクライナ サイバー戦争」特集。ロシア大苦戦の裏に、世界が知らないもう1つの戦場が......。西側ハッカー連合vs.ロシア軍の攻防を描く。

―――

ウクライナ侵攻が行き詰まるなか、ロシアは今後、サイバー戦争能力への依存度を高めるかもしれない。

米政権は対ロシア制裁への報復としてランサムウエア攻撃が行われる可能性があると企業に警告し、米当局者や専門家も「デジタル版真珠湾」の危険性を指摘している。だが、急拡大するサイバー脅威への備えは脆弱だ。大胆な行動を取らなければ、大惨事はほぼ避けられない。

アメリカは通常戦争能力で優位を維持しているが、サイバー空間では野心的な競合国や独裁的小国家にも互角に戦うチャンスがある。なかでもサイバーツールで軍・情報機関・警察を強化する中国、ロシア、イラン、北朝鮮は「悪のビッグ4」だ。

この4カ国は営利目的でもサイバー技術を活用する。アメリカの選挙や政府関係者のデータ、重要インフラ、デジタルサプライチェーンといった幅広い標的を狙い、サイバー攻撃能力に資金を投じて桁外れのリターンを得ている。その一方、アメリカの対応は国家機構面でもテクノロジー面でも不十分だ。

アメリカが核兵器開発競争を制したのは、第2次大戦中に原子爆弾を製造したマンハッタン計画のおかげだった。現在の危機的状況にも、いわば「サイバー版マンハッタン計画」で臨むべきだ。最も確実な抑止策は技術面で敵に圧倒的な差をつけることだと認識しなければならない。

具体的には、今ある能力をより賢く配置して防御を固めつつ、将来に備える必要がある。

アメリカを脆弱にする現在の体制

サイバー防衛の大半を国土安全保障省(DHS)や同省サイバーセキュリティー・インフラセキュリティー庁(CISA)に委ねる現行体制は、不適当だと判明している。CISAには十分な技術知識がない。一方、攻撃行動を担う国家安全保障局(NSA)とサイバー軍司令部は世界有数のサイバー人材を擁している。

サイバー空間での防衛と攻撃を別個の組織に割り振る体制はアメリカをさらに脆弱にする。サイバー攻撃の未然防止を重視し、先制攻撃や先制的なバグ修正の取り組みを強化する必要がある。

将来に向けては、今こそ大幅な投資増を図るときだ。持続的脅威であるサイバー戦への支出を優先事項にしなければならない。最優先すべきは量子コンピューティングや人工知能(AI)への投資だ。これはアメリカが直面する最大の課題の1つ、すなわち人材枯渇を解決する上で役立つだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事にミランCEA委員長、任期来年1月末まで

ワールド

赤沢再生相、米商務・財務長官と協議 関税巡り大統領

ビジネス

米国株式市場=S&P反落、イーライリリーに売り ナ

ワールド

ロシア・ウクライナ首脳会談、米ロ会談の条件でない=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの母子に遭遇したハイカーが見せた「完璧な対応」映像にネット騒然
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 6
    経済制裁下でもロシア富豪はますます肥え太っていた…
  • 7
    バーボンの本場にウイスキー不況、トランプ関税がと…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    【クイズ】1位は中国で圧倒的...世界で2番目に「超高…
  • 10
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中