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ウクライナの巨大地下空間、オデーサにも存在 総延長2500キロのトンネル網で防衛有利に

2022年4月29日(金)12時30分
青葉やまと

オデーサの地下に広がる巨大な地下ネットワーク Radio Free Europe/Radio Liberty-YouTube

<ウクライナに存在する地下空間は、マリウポリの製鉄所だけではない。南部オデーサの街に、さらに広大な地下ネットワークが広がる>

アゾフスタリ製鉄所への立てこもりで、大規模な地下シェルターが注目を集めている。巨大な地下空間が存在するのは、実は製鉄所だけではない。

ウクライナ各地に地下施設が残るが、なかでも最も広範となっているのが南部オデーサ(オデッサ)の地下トンネル網だ。激しい攻撃を受けている同地で、人々の貴重な避難先として活用がはじまった。

トンネルは地下25メートル以深の3層にわたって広がり、最大深度は「大深度」と呼ぶことができる地下60メートルに達する。東京駅で最も深い京葉線ホーム(地表下31メートル)と比べても、ほぼ2倍の深さだ。

迷路のように入り組んだ通路がびっしりと敷かれており、その範囲は都市を越えて近郊の村々へも伸びている。総延長は市街地の直下だけで総計500キロにおよび、郊外も入れると2500キロ前後になる。地下に設けられたものとしては世界最大級の通路網だ。

ラジオ・フリー・ヨーロッパはウクライナ侵攻以前の2020年、この広大な地下通路の様子を動画に収めている。「ウクライナ・オデーサの街で、にぎやかな広場のはるか地下深く」に「ミステリアスな地下世界が横たわっている」と動画は取り上げている。

Bunkers, Bones, And Booze: The Eerie Mysteries Of Odesa's Catacombs


石切場からシェルターに

この地下空間は、現地で「カタコンベ」と呼ばれている。通常カタコンベは地下墓所を指すが、オデーサのカタコンベには墓所として使用された実績がない。まるで無限に続く教会地下のような内観から、そのように呼ばれるようになった。

トンネルはもともと石灰岩を切り出す目的で、19世紀初頭から掘り進めらた。オデーサには歴史ある石造りの建造物の数々がそびえるが、もともとその建材は地下深くから切り出され地上へと運ばれたものだ。採掘業が衰退すると、後には広大なトンネルのネットワークが残された。

その後、段階的に洞窟内の複数の箇所が核シェルターとして強化されている。第二次大戦ではソ連のレジスタンスがカタコンベに籠り、知られざる司令部として機能した。錆びついた当時の設備がいまもトンネル内に残る。ウクライナ内戦時にも、実際に避難先として使用されている。

現在でも洞窟の随所に、こうした施設やシェルターなどが残る。中規模のシェルターとしては1200人程度が2週間生活できる設計のものや、さらに深部には5000人を収容可能なものなどがある。

街の至るところに小屋のような建物や地面に設けられた観音開きの扉などがみられるが、ここが地下空間への入り口だ。扉を開けると、内部への階段が続いている。街角からまるで迷路のようなカタコンベへと降りる階段は無数に存在し、今日知られているものだけで1000を超える。

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