最新記事

ウクライナ危機

渦中のウクライナ大統領が「まだ大丈夫」と、アメリカに不満顔の理由

Kyiv's Domestic Worries

2022年2月14日(月)17時35分
ウラジスラフ・ダビドゾン(ジャーナリスト)

「持久戦」に焦りは禁物

バイデンとゼレンスキーのアプローチは一見、違って見える。しかし、こうした表向きの違いが実際はウクライナに有利に働くかもしれない。

ウクライナ情勢に詳しい、シンクタンク「大西洋協議会」のエイドリアン・カラトニッキー上級研究員はこう指摘する。

「ロシアの侵攻をめぐるバイデンとゼレンスキーの危機感の差は、ウクライナにはプラスに働く。第1に、バイデンの強硬姿勢が軍事的支援と制裁の強化に対する同盟国からの支持を拡大する。その一方で、ゼレンスキーが慎重な姿勢を示すことがパニックを防ぎ国民を結束させるのに役立っている」

各国首脳が毎週のようにウクライナを訪問しているほか、国際社会の激しい怒りやメディアがキエフに殺到していることも、ロシアによる新たな軍事作戦の可能性を低下させていると言えるだろう。

ウクライナでは有事に備えて大勢の一般市民が民兵部隊「領土防衛隊」に志願し、応急処置の方法などの講習会に参加している。こうした市民の結束や即応態勢の強化に、同盟国からの兵器供与が加わり、ウクライナの力が増す。

ロシアへの警戒を緩めないアメリカの言動は、確かにウクライナにプラスになっている。

その一方で、ウクライナ経済にとっては深刻なリスクもはらんでいる。

ウクライナの通貨フリブナは、2015年2月の2度目の和平合意を前に東部の親ロシア派との戦闘が起きたせいで急落。それ以降、為替レートは過去最低水準の1ドル=28フリブナ前後で推移している。

性急に事を進めて外国投資家が逃げるような事態に陥るのを避けたいとゼレンスキーが考える可能性は十分にあり、その場合、交渉が長期化して同盟国の注目が別の新たな危機に移るのは必至だ。

ロシアは安全保障をめぐるアメリカの提案を再度はねつけており、緊張緩和の手だてはなかなか見えない。ロシア軍はウクライナとの国境の軍備増強を続けており、そうした圧力攻勢が非常に長引きかねないことをゼレンスキーは理解している。

ウクライナは今「持久戦」の真っただ中にある。時期尚早なパニックはウクライナ経済の破綻を招きかねない。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ワールド

25年度補正予算が成立=参院本会議

ビジネス

EU、35年以降もエンジン車販売を容認する制度検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中