最新記事

中国

「羊毛は羊の体に生える」と「バラマキ」を戒める中国――日本の「成長と分配」は?

2021年10月25日(月)09時12分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

しかもGDP自身もひたすら成長しているので、果たして「羊毛は羊の体に生える」という考え方のために債務が低いのか、それともGDPが成長しているために債務を増やさないで済んでいるのか、なんとも言えないところだ。

どうやら最近は、一部に現代貨幣理論(Modern Money Theory=MMT)を強く信じる人たちがいて、 「独自通貨を持つ国は債務返済のための自国通貨発行額に制約を受けないため、借金をいくらしても財政破綻は起きない」主張しているようである。しかし、いったん財政規律や中央銀行への信認が失われてしまうと、深刻なインフレと経済の大混乱が発生する恐れがあるとのこと。

アメリカの中央銀行に当たるFRB(The Federal Reserve Board)(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は22日、まさに「供給網の混乱による供給制約とインフレの悪化(来年に入ってもインフレ率の上昇が続く可能性)」に関して懸念を示したとアメリカのWall Street Journalなどが報道している

図1のアメリカをご覧いただくと、日本ほどではないにせよ、やはり政府債務がGDPを上回っていて、特に最近はコロナのせいで緊急財政出動をしているからだろうと思うが、GDPとの差が大きくなっている。

中国は、「羊毛は羊の体に生える」という論理を基本としていて、おしなべて現代貨幣理論(MMT)に否定的だ。たとえば『中国金融』という雑誌に、中国の中央銀行に相当する中国人民銀行の政策司の孫国峰司長が<現代貨幣理論への批判>を書いている

矢野事務次官の「バラマキ合戦」批判

日本では財務省の矢野康治事務次官が月刊誌『文芸春秋』11月号に寄稿し、コロナの経済対策にまつわる与野党の政策論争を「バラマキ合戦」と批判し、「このままでは国家財政が破綻する可能性がある」と訴えた

矢野氏の論評に対して、岸田首相は不快感を示し「協力してくれないと困る」と言ったようだが、しかし経済同友会は「100%賛成」と評価している。興味深いのは、鈴木財務大臣が内容的に「問題はない」という見解を示したことだ

どうやら日本の財務省や経済界は中国の「羊毛は羊の体に生える」派で、岸田首相は「羊毛は羊の体に生えるとは限らない」とする派なのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中