最新記事

飢饉

気候変動による世界初の飢饉が発生か 4年間降雨なく、昆虫で飢えをしのぎ...マダガスカル

2021年9月8日(水)16時15分
青葉やまと

マダガスカル南部で、数十万の人々が飢饉の瀬戸際にある Photo: WFP/Tsiory Andriantsoarana

<被害の大きな農村では、住民の4人に3人が深刻な飢餓状態に>

アフリカ大陸の南東に浮かぶ島国・マダガスカルで、深刻な飢饉(ききん)の懸念が高まっている。

国連最大規模の人道支援機関である世界食糧計画(WFP)は、「グラン・スッド」と呼ばれるマダガスカル南部の孤立した農村地帯だけで2万8000人が重度の飢餓状態にあり、食糧難に見舞われている人々の数は114万人に達すると発表した。

WFPは4月発表のニュースリリースのなかで、「マダガスカル南部で長期にわたり容赦ない日照りが起きており、数十万の人々が飢饉の瀬戸際にある」と述べている。

現段階ではWFPが定める飢饉の定義に達していないものの、近い将来に正式な飢饉と認定される可能性が高い。現時点で4人に1人が急性栄養不良を患っており、WFPは「これ以上の悪化を食い止める緊急の手段が講じられない限り、(マダガスカルは)飢饉に陥る危険性が高い状態にある」と警告した。

これまでにもマダガスカルはたびたび干ばつに見舞われてきたが、基本的に3年に1度ほどのペースに留まっていた。近年ではほぼ毎年発生しているうえ、枯れ果てた森林からはネズミの大群が四散し、ペストの大流行を招いている。こうした混乱に拍車をかけるように、昨年からは新型コロナウイルスがまん延するようになった。

「40年来最悪の干ばつ」 サボテンで食いつなぐ

状況は人道上の危機とみなされるほど悪化している。国連ニュースは現地に赴いた使節団からの報告として、南部地域が「40年来最悪の干ばつ」に見舞われており、「人々は人道的見地からして深刻な危機状態」に置かれていると伝えた。

一例として同地域に位置するマロヴァト村は、昨年から極度の水不足が続いており、人口の75%が深刻な飢餓状態にあるという。村から8キロほど行くと都市部に出るが、ここでも吹き荒れる砂嵐が近郊の農地を埋没させ、多くの人々が栄養失調に陥っている。

Southern Madagascar On The Brink Of Famine Due To Catastrophic Drought

英BBCも同様に島南部の惨状を取り上げ、地域に4年間ほぼ降雨がなく、数万の人々が飢えや不安定な食料事情に苦しんでいると報じている。「ここ40年間で最悪の干ばつが、国南部の孤立した農村部に壊滅的な被害を与えており、人々は生きるために昆虫をかき集めている」と記事は続ける。

雨が降らないため種をまいても農作物を育てることができず、食料を自給できる目処は立たない。ある女性はBBCに対し、「今日はサボテンの葉以外には食べるものがまったくありません」と語った。彼女は飢餓で夫を亡くし、残された2人の子供たちはここ8ヶ月ほど毎日、イナゴを食べて生き延びている。

Madagascar on the brink of "climate change famine" - BBC News


WFP日本語版サイトでは、次のような記述を確認できる。「ある村で、子どもに最後の食事はいつ食べたのか、それは何だったのかと尋ねました。 彼は粘土質の地面を指差しました。」 母親は子の空腹を満たそうと、普段であれば食べない雑草を土と一緒に煮込んだのだという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中