最新記事

半導体

台湾のTSMCはなぜ成功したのか?

2021年5月10日(月)10時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

その結果は現在の半導体ビジネスの世界ランキングに如実に表れている。

まず、Trend Force社が調査した「2020年の半導体事業売上ランキング世界トップ10(ファブレス企業)」を見てみよう(2021年3月の統計)。

endo20210610093001.jpg

残念ながら、ここに「日本はない」。

ファウンドリに関しては、繰り返しになるが、<アメリカはなぜ台湾を支援するのか――背後に米中ハイテク競争>に掲載した円グラフをご覧いただければ、ここにももちろん「日本はない」ことは歴然としている。

ではかつての日本のお家芸だったIDM(Integrated Device Manufacturer)(自社内で回路設計から製造工場、販売までの全ての設備を持つ垂直統合型の半導体メーカー)も含めた、すべてのパターンの半導体事業のランキングではどうだろう。

以下に示すのはIC Insights社が調査したすべてのパターンの「2020年半導体事業売上ランキング世界トップ15」のデータだ(2020年11月23日の売上予測)。

endo20210610093002.jpg

ようやく1社だけ残っていた。

12番目と低いランクながらも、メモリーに強い東芝系のKioxia(キオクシア)だ。

半導体チップを製造する会社として、他はほぼ全滅ということになろうか。

これが日本の現状である。

半導体製造装置産業だけが生き残っている日本

そのような中、半導体チップの企業ではないが、その製造過程で不可欠の装置を製造している分野だけが、実は健在なのである。それが「半導体製造装置」だ。

これに関しては私が遠くから秘かに尊敬している服部毅氏が2021年3月25日に<2020年の半導体製造装置メーカートップ15、日本勢は7社がランクイン>で、専門家の視点から書いておられるので、そちらをご覧いただきたい。

半導体製造装置は半導体チップが出来上がるまでに絶対不可欠な装置の一つで、中国は喉から手が出るほどに欲しい。トランプ政権による対中制裁で、中国は半導体製造装置の入手に苦労している。だから習近平は日本に微笑みかけている。

常に中国に忖度をしている日本政府だが、中国が「レアアースの輸出を止めるぞ」と言った時には、日本は「ならば半導体製造装置の対中輸出を止めますよ」と威嚇することもできる。

たとえ落ちぶれたとはいえ、思わぬところで日本は技術を発揮している。

中国の顔色を窺いながらの国家運営は再検討すべきではないだろうか。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔アングル〕日銀、柔軟な政策対応の局面 米関

ビジネス

3月完全失業率は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ビジネス

トランプ氏一族企業のステーブルコイン、アブダビMG

ワールド

EU、対米貿易関係改善へ500億ユーロの輸入増も─
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中