最新記事

中国

中国経済は悪化していたのに「皇帝」が剛腕を発揮できた3つの理由

2020年7月22日(水)17時55分
近藤大介(ジャーナリスト) ※アステイオン92より転載

JUN DONG-iStock.


<中国式の社会市場経済(中国模式)は、習時代になるまで成功を収めていた。その後経済は悪化したが、個人情報が取り放題の中国はAIで世界をリードするかに思われた。そんなときに新型コロナウイルス問題が起こり、ジャーナリスト近藤大介氏の仮説は揺らぐことになる。論壇誌「アステイオン」92号は「世界を覆うまだら状の秩序」特集。同特集の論考「習近平の社会思想学習」を2回に分けて全文転載する>

この原稿を執筆している二〇二〇年四月現在、日本のニュースは新型コロナウイルス関連一色と言っても過言ではない。私が日々、インターネットで見ている中国の中央電視台(CCTV)も同様だ。欧米諸国も含めて、世界中がコロナウイルス禍に慄(ふる)えている。

この降って沸いたような騒動によって、私のところにもテレビやラジオ、ネット番組の担当者から、「中国の専門家として話をしてほしい」と、よく声が掛かるようになった。そして私がスタジオへ行くと、いつも「ウイルスの専門家」とペアで出演させられる。これまでウイルスの専門家など、一人の知り合いもいなかったのだが、おかげで彼らのユニークな世界観を拝聴できた。

一例を挙げると、中国広東省深圳はこの頃、「アジアのシリコンバレー」と称されている。隣接する香港のGDPを二〇一八年に追い越した躍動著しい深圳を、私はこのところ毎年訪問。深圳を含む広東省、もしくは広東省を含む中国南部が、今後のアジア経済、ひいては世界経済のセンターになっていくのではないかという「仮説」を立てていた。

ところが、ウイルスの専門家たちに一笑に付されたのである。彼ら曰く、

「ウイルス学的に見ると、世界で最も危険な地域が、アフリカの一部と中国の南部だ。エボラ出血熱やアフリカ豚コレラはアフリカ発で、SARS(重症急性呼吸器症候群)と今回の新型コロナウイルスは中国南部発。そんな地域が、世界経済の中心地になんか、なるわけないでしょう」

こう指摘されて、ぐうの音も出なかった。かくして私の「仮説」は、分が悪くなってしまった。同時に、今回の新型コロナウイルス騒動によって、もう一つ分が悪くなってきている「仮説」がある。それは、「中国模式」(チャイナ・モデル)が、二一世紀の人類の新たな国家統治システムの規範になるという「仮説」である。こちらの「仮説」は私が立てたものではなくて、習近平時代になって、中国の政官学界からよく聞く話である。

以下この「仮説」について、順を追って論証を進めたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中