最新記事

Black Lives Matter

母親の手記「真の正義を手にするまで私は決して諦めない」

A MOTHER’S PLEA

2020年7月6日(月)06時45分
グウェン・カー(活動家)

息子エリックの死以来、カー(中央)は抗議運動を牽引してきた SPENCER PLATT/GETTY IMAGES

<今回の黒人差別反対運動の発端となったジョージ・フロイド事件の前にも、同じように警察の暴力で息子を失った女性がいた。その痛みと願いを本誌に寄稿。「Black Lives Matter」特集より>

私がジョージ・フロイドのことを知ったのは事件の翌朝だった。電話してきた記者から、彼がどのように亡くなったのかを聞いたとき、たちまち心に強烈な痛みを感じた。
20200707issue_cover200.jpg
思い出したのは2014年7月17日のことだ。その日、私の息子エリック・ガーナーは警官に腕で首を絞め付けられ、それが原因で死亡した。

涙があふれた。エリックに起きたことが、そのまま繰り返されたかのようだった。亡くなった男性が、息子と同じく「息ができない」と言ったと知ると、不気味な感覚に襲われた。彼が息をできなかった理由を知らされると、何もかもがいっぺんによみがえってきた。

フロイドは手錠を掛けられて地面に横たわった状態で、警官に喉元を膝で押さえ付けられた。ほかの警官3人が立って見ていた。エリックのように、彼は助けてくれと懇願した。到底理解できない出来事だった。

私にできたのはフロイドの遺族に胸の内を明かし、心からの同情と哀悼の気持ちを伝えることだけだった。彼らがどう感じているか、私には分かった。わずか6年前に同じ感情を味わったのだから。彼らを抱き締めることができたらと思った。彼らはあまりにも大きな悲しみと痛み、怒りを抱えている。

フロイドの遺族には、戦わなければ駄目だと伝えた。楽な戦いではないが、それでも彼らは諦めないと分かっている。私も諦めたりはしない。

記者などが今、私のコメントを欲しがる理由は理解できる。だがニュースになり、抗議活動を引き起こしている事件の犠牲者は氷山の一角だ。ほかにも大勢いるが、誰も証明できず、誰も公表しようとしなかった。

私たちアフリカ系アメリカ人の母親は日々、このトラウマと向き合っている。私たちの子供が暴行を受け、追われ、殺されている。ミネソタ州ミネアポリスで起きたフロイドの事件は、幸いにも撮影されていた。そうでないケースはいくつもある。

私たちは油断してはならない。どれほど苦しい戦いでも、続けなければならない。私たちの地元が事件の現場になっている。私たちを殺し、脅かして残忍に扱っても、大半の場合はなかったことにされる。だが私たちが力を合わせ、私たちは逃げないと知らしめれば、彼らはいずれ注意を払うだろう。

【参考記事】BLM運動=「全ての命が大事」ではない 日本に伝わらない複雑さ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中