最新記事

感染症対策

ブラジルのコロナ無策は高齢者減らしのため?

Brazil Government Aide Says COVID-19’s Toll on Elderly will Reduce Pension Deficit

2020年5月28日(木)16時55分
ブレンダン・コール

サンパウロにあるブラジル最大の墓地で、作業に追われる防護服を着た埋葬業者 Jason Lee-REUTERS

<ブラジルが無策に転じたのは、コロナ対策会議で「高齢者が最もリスクが高い」と報告したとき。ある高官が「年金の赤字が減って結構」と言ったという>

ブラジルの保健当局は当初、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために迅速に手を打ったのだが、報道によれば、ジャイル・ボルソナロ大統領の首席補佐官室の介入により、方針が転換された。その後のブラジルの対応には国内外の批判が集中している。

ブラジルには目下、保健相が不在だ。ネルソン・タイシ保健相は5月15日に就任後わずか1カ月で辞任した。感染防止より経済を優先し、スポーツジムや美容サロンの営業再開も許可するというボルソナロの方針に、とてもついていけないと判断したからだ。新型コロナウイルスの脅威を軽視し、ロックダウン(都市封鎖)を頑として拒むボルソナロには、世界中から非難の声が浴びせられている。

タイシの前任者であるルイス・エンリケ・マンデッタ元保健相は、国民にソーシャルディスタンシング(「社会的距離の確保」)やステイ・ホームを呼びかけたが、それがボルソナロの不興を買い、4月に解任された。ブラジルではわずか1カ月間に2人の保健相がポストを去ったことになる。

マンデッタは在任中、新型コロナウイルスの脅威を即座に見抜き、クルーズ船の運航停止や大規模な集会の禁止、外国からの帰還者の隔離などの措置を次々に打ち出した。

「年金財政が改善」

だが、大統領首席補佐官室からの「圧力」でマンデッタの方針は骨抜きにされた、とブラジル保健省の新型コロナウイルス対策を率いた感染症の専門家フリオ・クローダはロイターに語った。

方針転換のきっかけになったのは、3月の対策会議でクローダらが、高齢者の死亡リスクが最も高いと報告したことだという。

「死者が高齢層に集中するなら、結構なことだ」

その場でそう発言したのが、首席補佐官室の中でも民間の保険業務の監督責任者で、経済相と連携して年金改革に取り組むソランジュ・ビエイラだった。

「年金の赤字が減って、わが国の財政状況は改善する」と、ビエイラは述べたという。

ロイターによると、会議の場にはいなかったが、後で出席者から話を聞いた別の当局者も、ビエイラがそう発言したと明かした。

ビエイラは本誌に対し、対策会議では「一貫して人命を守ることを第一に」話し合いが行われたと主張した。

<参考記事>ブラジル大統領ロックダウンを拒否「どうせ誰もがいつかは死ぬ」
<参考記事>新型コロナよりはるかに厄介なブラジル大統領

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中