最新記事

中国

ビッグデータ立国目指す中国、民法整備で個人情報保護に一歩

2020年5月26日(火)17時22分

中国は個人のプライバシーと情報に対する権利を初めて法制で整備する。14億もの国民の情報がデジタル化され、情報漏えいに対する脆弱性が問題となるなか、個人情報の保護に向け象徴的な一歩を踏み出す。写真は北京で22日撮影(2020年 ロイター/Tingshu Wang)

中国は個人のプライバシーと情報に対する権利を初めて法制で整備する。14億もの国民の情報がデジタル化され、情報漏えいに対する脆弱性が問題となるなか、個人情報の保護に向け象徴的な一歩を踏み出す。

22日から開幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の審議には、中国初の民法典が盛り込まれた。

草案では個人のプライバシーと個人情報が保護される権利がうたわれている。データ収集者は個人情報を守る義務があり、同意なく取得・開示・処理することはできないとしている。

中国での個人情報保護に向けた動きは、急速に成長するインターネットセクターを保護し法的正当性を与えるほか、国内の重要情報の海外移転を防ぐためとみられている。

法制化にあたっては、こうした権利の保護を定めた詳細な規制が伴う必要がある。また政府による監視から個人を守る術はない。

それでも専門家は、デジタルプライバシー権の認識は個人を守るための重要な一歩だと語る。

北京の対外経済貿易大学のXu Ke教授は「個人情報の定義が法に定められていない場合、多くの紛争は解決困難だ。訴える手段がないからだ」と述べた。

また香港城市大学のChen Lei法学教授は、EU(欧州連合)の一般データ保護規則ほど強力なものではないにせよ、法が整備されれば中国は個人のデータプライバシーの法的枠組み構築する少数派の国々の仲間入りをすることになる、と評価した。

専門家によると、中国の現行法下では違反した企業への罰則規定が不十分であるため、適切に個人が保護されているとは言えない。またプライバシーに関する訴訟について中国の裁判所が下す判決には、これまで一貫性がみられなかった。これは不十分な規制や硬直した司法制度下で裁判官が新たな法解釈を行うことに限界が生じているためという。

象徴的な例として、2017年に米アマゾン・ドット・コム を相手取り、42人が起こした集団訴訟が挙げられる。原告の1人は、購入番号や商品情報を持つ人物からの電話で返金を告げられてフィッシング(なりすまし)詐欺サイトに誘導され、24万7000元(3万4627米ドル)をだまし取られた、と訴えた。

しかし中国の裁判所が下した判決は2度とも、民事裁判より先に刑事裁判が起こされなければならないというものだった。

原告側弁護士は「この判決は、企業が個人情報の保護やデジタルセーフティーに何ら配慮を行っていないことを示している」と批判した。

全人代は、特に個人情報の保護に主眼を置いた法律を別途、年内に整備する方針。専門家は、実効性を持たせるためには違反や情報漏えいに対してより厳しい罰則規定を設ける必要があると指摘する。

アマゾン訴訟の原告側弁護士は「(民法典は)民事訴訟を行う上でも、被害者保護の点からも役に立つ。裁判所にとって、より明確な基準になる」と評価した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


20200602issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月2日号(5月25日発売)は「コロナ不況に勝つ 最新ミクロ経済学」特集。行動経済学、オークション、ゲーム理論、ダイナミック・プライシング......生活と資産を守る経済学。不況、品不足、雇用不安はこう乗り切れ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中