最新記事

感染症対策

インドネシア首都ジャカルタは「非常事態」? 新型コロナウイルスめぐり在留邦人に緊張と混乱

2020年3月21日(土)19時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

感染の影響で休校となったジャカルタ市内の学校をボランティアが消毒している。Willy Kurniawan - REUTERS

<今ではASEAN第2位の感染者を擁する国で出された娯楽施設の営業停止と在宅ワークの要請は「非常事態宣言」として世界を駆け巡った>

2月までは東南アジアで唯一新型コロナウイルスの感染者ゼロを死守してきたインドネシア。しかし、3月2日、初の感染が確認されてからは徐々にその数が増え、最新の統計で感染者450人・死者38人となった(21日時点)。

この状況を受け首都ジャカルタのアニス・バスウェダン州知事は20日、拡大が広がる新型コロナウイルスの感染を阻止するため、これまで以上に厳しい対応策を発表した。

この新たな対応策をめぐって日本を含む各国のメディアは「非常事態宣言(declared a state of emergency)」との表現を使用して速報した。

しかし新たな対応策の具体的な内容は、娯楽施設の営業停止や公共交通機関の運行制限、在宅ワークなどの要請で、強制力や罰則を伴う強力な措置とはいえないのが実態である。

州知事が記者会見で使用したインドネシア語の表現を忠実に訳せば「コロナウイルス災害緊急対応」が適当な表現といえ、在ジャカルタの日本大使館も「非常事態宣言」という語句に関しては正しい訳ではないとの立場から「新型コロナウイルス感染緊急対応のフェーズ」という表現を使って在留邦人への注意喚起や情報提供を発出している。

単なる言葉の訳出の問題といえばそれまでではあるが、感染者や死者が日に日に増加し、今や感染者数では東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国内ではマレーシアに次いで2番目、死者数にいたっては最多となったインドネシア。

ジョコ・ウィドド大統領、保健相や内相などの関係閣僚、ジャカルタ州知事、中部ジャワ州知事などの地方自治体のトップなどが次々とメディアに登場して、緊急対応策の発表だけでなく、以前の対策の上書きをしたり、朝令暮改や修正に次ぐ修正をしたりするなど混乱を極めるなか、事態の推移を見守る在留日本人はかなり情報や報道に神経質になっているのも事実である。

そこへ「非常事態宣言」というインパクトの非常に強い表現は単なる言葉の問題の域を超えて、間違いなく誤解を与え、疑心暗鬼を広げているのも事実である。

在インドネシア歴が長く、インドネシア語にも精通している日本人は「非常事態宣言というと、1965年のインドネシア共産党によるクーデーター未遂とされる930事件のような状況を連想させることもあり、あまり適当な表現とは思わないし、日本語の訳としても誤っている」とインドネシアならでは歴史的背景にも言及して説明する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界EV販売は年内1700万台に、石油需要はさらに

ビジネス

米3月新築住宅販売、8.8%増の69万3000戸 

ビジネス

円が対ユーロで16年ぶり安値、対ドルでも介入ライン

ワールド

米国は強力な加盟国、大統領選の結果問わず=NATO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中