最新記事

スポーツ

女子サッカー選手の貧し過ぎる現状を憂う

Fair Play for Women Superstars

2019年7月13日(土)10時45分
ジャッキー・デイガーナー(セントラル・ランカシャー大学ファカルティー・ディレクター)

女子サッカー選手には最高のプレーを見せても報われない現状がある Christian Hartmann-REUTERS

<かつては禁止されていた女子サッカーの試合――今なお活躍の場も報酬も男子に比べてはるかに少ない>

今月7日までの日程で開催されたサッカー女子ワールドカップ(W杯)フランス大会では、ミーガン・ラピノー(アメリカ、トップ写真右)らスター選手の活躍に世界のサッカーファンの注目が集まった。

この20年ほどで女子サッカーは大きな発展を遂げた。11年にFIFAのジョセフ・ブラッター会長(当時)が「(サッカーの)未来は女子にある」と述べたほどだ。

女子サッカーの歴史は20世紀初頭にさかのぼる。第一次大戦中、イングランド北西部のプレストンにある弾薬工場に女子チームのディック・カー・レディースが生まれた。このチームと、セント・ヘレンズ・レディースという女子チームが1920年にリバプールで行った試合は、5万3000人の観客を集めた。

だが、盛り上がりは一時的なものに終わった。21年、イングランドサッカー協会(FA)は各クラブに対し「スタジアムをそうした(女子の)試合に使わせないように」と呼び掛け、女子の試合を事実上、禁止した。この状況は71年まで続いた。

女子サッカーが復活した後、イングランドではアーセナルやリバプールといった有名クラブの女子チームが創設され、女子サッカーの新時代をつくり上げてきた。イングランドで女子サッカー選手のプロ契約が導入されたのは09年。11年にはトップリーグである「FA女子スーパーリーグ」が設立され、17~18年シーズンに完全なプロリーグとなった。

だが報酬となると、男子選手との差は大きい。FA女子スーパーリーグでプレーする選手の平均年俸は3万5000ポンド(約480万円)。スポンサー契約も、高くて7万ポンド(約960万円)程度だ。多くの選手がサッカーだけでは生活できず、副業を持たざるを得ない。

私は17年に欧州6カ国・地域(デンマーク、イングランド、フィンランド、ドイツ、オランダ、ノルウェー)で女子サッカー選手のキャリアに関する調査を行った。この調査では女子選手が直面するさまざまな問題が浮き彫りになった。

男子に比べて各クラブの組織には未整備な点が目立ち、プロやセミプロのリーグでプレーしたければ外国に行かなければならないケースも少なくない。一流の施設が使えないことも多い。

子育てとの両立支援も

調査報告書ではクラブのユースチームを、18歳未満、21歳未満、23歳未満といった年代別の構成にし、選手をトップチームに引き上げやすいシステムを導入することを提言した。年代別グループは、国際レベルではうまくいっている。

プロリーグが各国で創設されれば、外国に活躍の場を求める選手も減るだろう。現時点で全員プロ選手のリーグがあるのはイングランドやノルウェー、ドイツ、アメリカなどで、オランダなどのリーグはセミプロだ。言葉や文化の違いに耐えて外国でプレーしても、男子と違って名声も多額の報酬も得られないのが女子選手の現状だ。

調査では、キャリアへの影響を恐れて出産を先延ばしせざるを得ない状況も明らかになった。現役選手でも子供を持てるような環境の整備が強く求められている。各クラブも子育て支援の制度をつくるべきだ。例えば大きな大会のために何週間も家を空ける場合には、子供を連れて行けるよう支援すべきだろう。

W杯で素晴らしいプレーを見せる選手たちは、この瞬間を夢見て男子に負けない厳しい練習に耐えてきた。彼女たちのプレーに声援を送るときは、女子選手も男子と同じように輝くチャンスを与えられるべきだということを思い出してほしい。

The Conversation

Jackie Day-Garner, Faculty Director, University of Central Lancashire

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<本誌2019年7月2日号掲載>

20190716issue_cover200.jpg
※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――。そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バーツ高は行き過ぎ、経済に悪影響 中銀と協議=タイ

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、日銀会合前に円買い戻

ビジネス

中国万科、18日に再び債権者会合 社債償還延期拒否

ビジネス

26年度賃上げスタンス、大半の支店で前年度並みとの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中