最新記事

アメリカ政治

ひと筋縄ではいかないトランプ大統領の弾劾 民主党ペロシ下院議長も指摘

2019年6月10日(月)09時07分

●弾劾のプロセス

弾劾の最初のステップは下院から始まる。議論した上で、定数435議席の下院で単純過半数が大統領を訴追することに賛成すれば、「弾劾条項」が可決される。

上院に送付された後は、100人の議員を擁する上院で弾劾裁判が行われる。最高裁長官が判事となり、下院議員が検察の役を担い、上院議員が陪審団となる。大統領に有罪判決を下し、罷免するには、3分の2の賛成が必要だ。史上かつて、この事態が起きたことはない。

1868年のアンドリュー・ジョンソン大統領、1998年のクリントン大統領は下院によって弾劾訴追されたが、2人とも上院で無罪となった。1974年のニクソン大統領は下院で弾劾決議が出る前に辞職した。

●最高裁の介入

トランプ大統領は以前、もし民主党が弾劾を試みるのであれば最高裁で争うとツイッターに投稿している。しかし、上院による有罪判決を国の司法に不服申し立てすることは認められていない。

●証明の基準

通常の刑事裁判では、陪審員は「合理的疑いの余地のない立証」をもって有罪判決を下すよう指示される。これは極めて厳密な基準だ。しかし、弾劾裁判はそれと違い、下院と上院はそれぞれ独自の基準を設けることができる。

1974年に大統領になる前、当時の共和党ジェラルド・フォード副大統領は、「弾劾に値する違反というのは、歴史上の特定の一瞬において下院議員の大半がそう思うことすべてが該当する」と語っている。フォード氏はニクソン大統領の後任となった。

●各党の獲得議席

下院は現在、民主党が235議席、共和党が197議席、空席が3議席となっており、民主党は共和党の助けなしに弾劾訴追を決議することができる。

1998年、共和党が下院を支配していた際には、当時の民主党クリントン大統領を弾劾するための投票が行われ、ほとんどの共和党員は党の意向に従った。

現在、上院は共和党が53議席、民主党が45議席、そしてほとんどの場合民主党寄りの票を投じる無所属が2議席を獲得している。大統領の罷免には67票が必要となるため、民主党と無所属全員に加え、少なくとも20人の共和党議員が弾劾を支持することが必須となる。

●トランプ氏の代わりは?

可能性は低いが、もし上院がトランプ大統領の弾劾を決議した場合、ペンス副大統領が2021年1月20日の任期満了までの期間、大統領を務める。

(Jan Wolfe記者、Richard Cowan記者、Susan Cornwell記者、翻訳:宗えりか、編集:下郡美紀)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中