最新記事

日本社会

大学生1日あたりの生活費677円の残酷物語

2019年6月13日(木)15時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

だがこれでは、学生も生活費稼ぎのバイトをせざるを得ない。手元に『日本大学学生生活実態調査』という資料がある。マンモス私大の日大学生のバイト実施率は、1994年では46.8%だったが、2018年では66.6%に上昇している。バイトの目的も様変わりしている。<表2>は、バイトの目的を2つまで選んでもらった結果だ。

data190613-chart02.jpg

四半世紀の増分が大きい順に並べたが、生活費・食費稼ぎが19.7%から42.5%と倍以上に増え、旅行・交際・レジャー費目当ては52.7%から29.3%と大幅に減っている。<表2>を全体的に見て、切実な理由によるバイトが増えているのは明らかだ。

昨今の人手不足により、低賃金でバリバリ働いてくれる学生バイトは大歓迎される。学生の側もたくさん稼ぎたい。両者の意向がマッチして、学業に支障が出るまでのブラックバイトがはびこっている。学業とバイトの主従関係が逆転している学生もいる。

政府も重い腰を上げ、昨年度から給付型奨学金が導入され、来年度から高等教育無償化政策が実施される。対象は、住民税非課税の低所得世帯だ。一歩前進だが低所得層の救済という性格が強く、一般学生の生活が楽にはなりそうにない。

しかし大学進学率50%、高等教育進学率70%を超える日本において、全学生に支援の幅を広げるとなると膨大な財源を要する。入試難易度の低い私大の中には経営努力を怠り、教育機関として機能していない大学もある。学生を「金づる」としか見ていないところもある。こういう大学を公金で救済するべきではないと、一定の条件を満たさない大学は無償化の対象外となっている。

学生の生活支援の拡充も大事だが、高等教育の「スリム化」も必要だろう。大学進学が社会的に必須とされる必要もない。学生の生活困窮は、膨らみ過ぎた高等教育の構造上の問題でもある。

<資料:東京私大教連『私立大学新入生の家計負担調査』(2018年度)
日本大学『日本大学学生生活実態調査』(2018年度)

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ノルウェーSWF、ガザ関連でさらに6社投資除外

ワールド

ゼレンスキー氏、ロシアの「冷酷な」攻撃非難 「訪米

ワールド

イラン、協力停止後もIAEAと協議継続 「数日中に

ワールド

米特使、イスラエルはレバノン和平計画に従うべき
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    40代は資格より自分のスキルを「リストラ」せよ――年…
  • 9
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中