役人と企業に富、人民には飢えを 中国×ベネズエラ事業「負の遺産」

2019年5月17日(金)15時20分

ブリーフケース一杯の契約

2010年の初めごろまでに、サラザル氏の働きは結実した。

前出のシノハイドロは同年3月、PDVSAとの間で、マラカイの町の近郊に発電所を建設する3億1600万ドルの契約を結んだ。

この契約で、シノハイドロは「契約を結ぶために有利な立場を得る」ことに尽力した対価として、サラザル氏に10%の手数料を支払うことになった。

捜査書類に含まれる銀行記録によると、同社はサラザル氏のBPA口座に4900万ドルを振り込み、PDVSAとの間で追加の発電所建設契約を確保した後で、さらに7200万ドルを入金している。

シノハイドロは最終的に4カ所の発電所を建設したが、契約で定められた仕様を満たすものは1つもなかった。例えば、マラカイ近郊の発電所は、最大382メガワットの電力を発電する予定だったが、実際には多くても140メガワットしか発電できていないと、ベネズエラ国有電力会社の元幹部ホセ・アキラル氏は言う。

サラザル氏のコンサル会社は間もなく、年間1億ドル以上を稼ぐようになったと、同氏や複数の部下が証言している。

「(サラザル氏は)ブリーフケース一杯の契約を抱えていた」と、やはり起訴された部下の1人はアンドラの捜査官に話している。「契約を結べるところならどことでも結んだ。中には、プロジェクトを一切実行に移さない企業もあった」

カネが流れ込むにつれ、サラザル氏の金遣いは派手になった。ホテル滞在に数万ドルを遣い、贈り物に数百万ドルをつぎこんだ。

カラカスの宝石商で、高級時計メーカーのロレックスやカルティエの時計83本を100万ドルで購入したことが、捜査書類に含まれた請求書から明かになった。BPAに宛てたメールで、サラザル氏側は時計は「親戚や友人への贈り物」だったとしている。

2010年4月、アンドラ当局はサラザル氏の捜査を始めた。フランスの捜査当局が、サラザル氏がその当時行った送金について、アンドラ側に問い合わせを行ったのだ。それによると、サラザル氏は自身のBPA口座から、「サービスへのチップ」として、パリのホテル従業員に9万9980ドルを送金していた。何のサービスかは明らかになっていない。

同年5月には、コメプロジェクトの交渉が始まった。

その月、前出のサラザル氏の部下がCAMCの副社長とカラカスで面会したことが、両者が署名した契約書で判明している。この契約書は、同社がライスプロジェクトを勝ち取ることをサラザル氏が支援することに対し、同プロジェクトの契約額の10%を支払うことになっている。

数カ月のうちに、PDVSAアグリコーラは、ライスプロジェクトを2億ドル相当と見積もった上で、CAMCに事業を発注した。

CAMC側は、さらなるプロジェクトの契約締結に向けて、サラザル氏との間でもう一つ合意文書に署名した。銀行記録によると、CAMCはその6月、サラザル氏のBPA口座への総額1億1200万ドルの送金の第1弾を実施した。

デルタアマクロ州では、プロジェクトが着工した。

2012年までに、CAMCはベネズエラの開発銀から契約の半分にあたる1億ドルを受け取った。同社は、掘削機や蒸気ローラーなどの重機を中国から持ち込んだ。

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