最新記事

中国

全人代「中国の国防費」は脅威か──狙いは台湾統一

2019年3月13日(水)13時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

河野大臣の回答を待つまでもなく、昨年10月26日に習近平国家主席と会談した安倍首相は「一つの中国」を強力に謳っている「四つの政治文書の原則」を厳守すると習近平の目の前で誓ったのだから、安倍首相は「台湾は中国の一部にすぎない」と宣言したようなものだ。

それでも中国の国防費が脅威なのか?

もし、中国の国防費が日本にとって脅威だというのなら、せめて蔡英文の切なる願いを温かく叶えてあげるような対応をしてほしい。アメリカには出来て、日本には出来ない理由はどこにあるのか?

日本は第二次世界大戦における敗戦国だからなのか?

だから、いつまでも中国の顔色を窺いながらでないと行動できないのか?

それとも、経済的に強くなった中国には、平身低頭していないと、日本の経済が成り立たないと思っているからなのか?

中国を経済大国にのし上がらせたのは日本だ。

1989年6月4日の天安門事件で経済封鎖をした西側諸国の制裁を最初に破ったのは日本であり、1992年10月には天皇訪中まで実現させて、日本は中国に経済繁栄のきっかけを作ってあげた。あの時も中国はまず日本の経済界を動かした。

そして今、3月11日付のコラム<全人代「日本の一帯一路協力」で欧州への5G 効果も狙う>に書いたように、アメリカを追い抜こうとしている中国の背中を、日本は「やさしく」押してあげている。

そんな日本に、「中国の国防費は不透明だ」とか「中国の国防費の増大は日本に脅威だ」などと言う資格が、どこにあるというのだろう。

結論的に言えば、中国の現在の軍事力は、アメリカに遥か及ばないので、中国は戦争を仕掛けてきたりはしないだろう。中国が台湾を軍事攻撃すれば、アメリカが黙っていないからだ。現状では、中国はアメリカの軍事力には絶対に勝てない。

但し、ハイテク分野では違う。

習近平の国家戦略「中国製造2025」を達成して、アメリカを超える「危険性」を孕んでいる。それは、実際には起きないであろう火を噴く戦争よりも、実は恐ろしい。実現性が高く、目に見えない形で迫ってくるからだ。

その中国に手を貸しているのが日本だ。

これに関しては警鐘を鳴らし続ける。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中