最新記事

選挙

タイ王女の首相選立候補、一転して取り下げ 国王の反対を受け入れへ

2019年2月9日(土)22時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)


ウボンラット王女の立候補取りやめを伝える現地メディア / YouTube

王女の擁立劇、今後の選挙戦に影響を与えるか

タクシン派政党の「タイ国家維持党」が同党の首相候補者として届け出たウボンラット王女を取り消すことを決めた背景には、国民に与えた衝撃の大きさとともに、国王が王女の首相候補届出当日に反対を表明した迅速さと、全国放送を通じての声明発表という異例の対応から「ワチラロンコン国王の怒り」が尋常ならざるものであることを同党関係者、さらに海外で「亡命生活」を送るタクシン元首相が真剣にとめたことがあるといえる。

この結果、タクシン元首相とともに海外生活を続ける妹のインラック前首相の帰国、政界復帰への道のりはさらに遠のいた、との見方が有力になっている。

それでも総選挙では北部、東北部の農村地帯、貧困層を中心にしたタクシン支持派の基盤は依然として強固であることには変わりはない。

このため親軍政政党「国民国家の力党」や中立政党「民主党」などが、厳しい選挙戦を戦わざるを得ない状況はこれまで通りだ。しかし対立政党側が「王女擁立」を取り下げたことで、タイでは許されない王族の人物批判を展開せずに済むようになったことには胸をなでおろしているのは確実だ。

タイ王族は憲法、関連各種法規、王室典範などでその法的地位が保障され、王族としての地位と立場への批判、反対、侮辱などは「不敬罪」の対象として訴追され、厳しい処罰を受けることになっているからだ。

とりあえず王女の首相候補擁立は急転直下の展開で収束した。しかしタクシン元首相側も軍政側も「まだ何があるかわからない」として、2月15日の選挙管理委員会による総選挙立候補者と各政党が届け出た首相候補の立候補者名の正式発表まで気を緩めずに事態の推移を見守りながら、水面下では選挙戦略の激しいぶつかり合いが展開しているという。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 日本人が知らない AI金融の最前線
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月3号(2月25日発売)は「日本人が知らない AI金融の最前線」特集。フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに[PLUS]広がるAIエージェント

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ストライプ、ペイパルの買収か一部事業取得検討か=ブ

ビジネス

米EVルーシッド、第4四半期損失が予想上回る

ワールド

米、ヨルダン川西岸入植地でパスポート業務提供へ

ワールド

米上院議員、ウクライナ支持決議案提出 トランプ氏一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 8
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 9
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 10
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中