最新記事

ヘルス

脳の快感を呼ぶASMR(自律感覚絶頂反応)って何?

THIS IS YOUR BRAIN ON NOTHING

2019年1月16日(水)16時40分
ザック・ションフェルド(カルチャー担当)

mags190116-asmr02.jpg

優しく話し掛けられそっと触られ思いやりのあるまなざしで見られると、脳はリラックスして安全だと感じる PHOTO ILLUSTRATION BY C.J. BURTON

不眠症の治療に応用も

それだけではない。ASMRを何かに役立てようとする研究も少しずつ始まっている。同じ6月にイギリスのシェフィールド大学とマンチェスター・メトロポリタン大学の研究チームが、ASMRの生理学的効果に関する初の研究成果を発表している。

「ASMRはリラックスや鎮静の感覚で、人と結ばれているという感じを増すことが分かった」と、論文の共同執筆者ジュリア・ポエリオは言う。そうであれば、いずれは不眠症などの治療にASMRを応用できそうだ。

リチャードも、ボブ・ロスのように人を安心させる優しい声で話す。ASMRとは何か、初めてその定義が試みられた日を彼は覚えている。07年10月29日だ。その日、SteadyHealthという健康に関するウェブフォーラムのメンバーが「変な感覚が気持ちいい」というスレッドを立ち上げた。すぐに多くの反応があった。「頭のオーガズム」という用語の提案もあった。

ロスの番組に快感を覚えたという人も多かった。「何度も何度も見た」とシュワイガーは言う。「彼が絵を描くのを見て、彼の声とキャンバスを走るブラシの音を聞くと本当に落ち着いた。私はずっと不安を抱いて生きてきたので、神の恩寵のように感じた」

ロスは1995年に世を去ったが、今も慕われている。「彼はASMRのゴッドファーザーね」と事業を引き継ぐボブ・ロス社の社長ジョーン・コワルスキは言う。「ASMRという言葉がまだなかった頃から彼に夢中になる人は多かった」。番組を見ながら眠ってしまう人がいても、彼は気にしなかったという。「『申し訳ないけど、最後まで見たことはないんです。始まって10分くらいで寝ちゃうんで』と言ってくる人もいた」そうだ。

リチャードは科学者だから、ASMRは生理的な反応だと考え、ネットで論文を探した。しかし見つからない。当時分かっていたのは、ASMRが強い快感をもたらすこと、「頭のオーガズム」と呼ばれることはあっても性的な体験ではないこと、くらいだ。

「今は『ASMRエロティカ』とかで検索すると、セクシーにささやく動画がたくさん見つかる」と言うのは、ASMRスパ「ウイスパーロッジ」の共同設立者メリンダ・ラウ。でも本来のASMRが持つのは「興奮ではなく鎮静の効果だと思う」という。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、李成鋼氏を通商交渉官に正式任命 ベセント氏が

ワールド

ベトナム、26年は10%成長目標に 外的圧力でも勢

ワールド

韓国、防衛産業で世界4位目指す 李大統領が研究予算

ワールド

米政府閉鎖19日目、航空管制官の不足で主要空港に遅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中