最新記事

サーキュラー・エコノミー

ギリシャヨーグルトの廃棄物がジェット燃料になる日

2018年10月23日(火)11時01分
シドニー・ペレイラ

ILLUSTRATION BY ALEX FINE

<数千種類のバクテリアと混ぜて熱を加え、変化させることで、ホエーがバイオオイルになる>

あなたの食べるそのギリシャヨーグルトから出る廃棄物が、いつかジェット機さえ飛ばせるようになるかもしれない。それは、ホエー(乳清)と呼ばれる水っぽい物質。ヨーグルトの製造時、牛乳からタンパク質を取り出した際に分離されるものだ。

この廃棄物を数千種類のバクテリアと混ぜて熱を加え、変化させることで、ホエーはバイオオイルと呼ばれる物質になる。これは、バイオ燃料や飼料の添加物として使うことができる。

エネルギー専門誌ジュールに掲載された研究は、バクテリアがホエーを食べ、カプロン酸やカプリル酸といったバイオオイルに変換する過程を解き明かしている。食品製造時の廃棄物が有益な物質に生まれ変わるのだ。

このバイオオイル生産は、それほど人工的なものでもない。「ある意味、人間の腸の働きによく似ている」と、独テュービンゲン大学のラース・アンヘネント教授(環境工学)は言う。腸内のバクテリアが食物をさまざまな酸に変換するのと同じ、というわけだ。

「ホエーから、あらゆる物質を回収したい」と、アンヘネントは言う。「ヨーグルト製造産業をより高収益にすることもできる」

バイオオイルに含まれる酸は、家畜に投与する抗生物質に代わる「環境に優しい抗菌剤」としても使える。家畜の健康にいいだけでなく、抗生物質の使い過ぎで薬物耐性を持った菌が発生する事態も防ぐことができる。

「畜産業の規模は小さく思えるかもしれないが、この産業の二酸化炭素排出量は膨大だ。酸ホエーを家畜の飼料にできれば、持続可能な社会に不可欠な『閉じられた循環』の好例になる」と、アンヘネントは述べている。

将来的に、この物質にさらに処理を加えて炭素分子の鎖を十分に大きくできれば、ジェット燃料の代替品としてのバイオ燃料として使用することも可能になる。そのためにはさらなる精製が必要だ。現在の技術で可能だが、実用にはまださまざまな手を加える必要があるという。

微生物の生態系を調べる過程で、ホエー以外の廃棄物も有効利用できるようになる可能性がある。ジェット機を動かす可能性があるのは、ヨーグルトのかすばかりではないかもしれない。

※本誌10/16号「『儲かるエコ』の新潮流 サーキュラー・エコノミー」特集より。企業は儲かり、国家財政は潤い、地球は救われる――。「サーキュラー・エコノミー」とは何か、どの程度の具体性と実力があるのか、そして既に取り組まれている20のビジネス・アイデアとは?

[2018年10月16日号掲載]

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中