最新記事

地方創生

徳島、「阿波おどり」で内紛する間にさらに地盤沈下? 衰退する地方復活の可能性はあるか

2018年9月4日(火)18時33分
木下 斉(まちビジネス事業家)*東洋経済オンラインより転載

実質的に言えば、藍染は植物から作られる加工品であり、地域経済に落とされるお金は極めて大きく、江戸時代には「吉野川が育てた最大の特産物」と称されました。実際、阿波藩の財政基盤となり、「阿波25万石、藍50万石」ともいわれるほどの経済力を誇っていました。

その勢いは、明治時代の中ほどまで続いたのです。実は、1873(明治6)年から、1889(明治22)年の市政が敷かれるまでは徳島市は、全国トップ10の人口規模を擁する大都市でした(5万~6万人前後で推移)。当時の徳島市は、のちに急速に発展していく横浜や神戸などとさほど変わらない繁栄を謳歌していたのです。

全国の市場を相手に形成された藍産業などによる経済力は、地域内経済にも強い影響を与えます。

たとえば取引業者が徳島を訪れた際に、藍商が接待などを積極的に行うことで飲食業界や花柳界が栄え、発展していきます。この折に阿波おどりも一般大衆の踊りというだけでなく、華やかさをグンと高めるようになったというのが定説です。地域産業によって、阿波おどりは全国からも注目されるレベルの華やかさ、藍商などの経済力で全国各地の踊りの流派を呼び込むなどして、先進的な形式へと進化していったのです。

しかしながら、武士の世の中が終わり、工業的なインディゴ(鮮やかな藍色の染料)が流通し始める明治時代の後半からは藍産業は衰退していきます。残念ながら、戦後は主たる地域産業も大きくは発展することができていません。さらに1990年代には明石海峡大橋で陸続きとなった神戸・関西エリアへ消費が流出していくことなどによってさらに衰退することになり、その結果、現在の徳島市は全国88位の人口規模の市となっています。

「内輪もめ」している暇はない、敵はつねに「外」にいる

今回の阿波おどりの大混乱については、それぞれの組織・個人に言い分はあるはずです。しかし、内輪で互いにもめればもめるほど、地域としての力は低下していきます。敵は地元ではなく、外にいます。徳島市の状況は江戸・明治中期までを頂点にして、その後産業は細り、衰退の流れを止められていません。

2018年は徳島と関西を接続することになった明石海峡大橋が開通して、20年の節目の年に当たります。もともと、徳島経済は関西経済とも海によって一定の隔たりがあったものが、橋の開通によって神戸や大阪の商業とつながりが深くなり、そして物流が改善したことによって徳島内にさまざまな「地元外資本」による大型モールが開業していきました。競争のゆるい内需経済に慣れていた徳島市中心部商業は壊滅的な打撃を受け、地域として輸出する産業も細る中、内需経済にも「決定打」となる変化となりました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:メダリストも導入、広がる糖尿病用血糖モニ

ビジネス

アングル:中国で安売り店が躍進、近づく「日本型デフ

ビジネス

NY外為市場=ユーロ/ドル、週間で2カ月ぶり大幅安

ワールド

仏大統領「深刻な局面」と警告、総選挙で極右勝利なら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「珍しい」とされる理由

  • 2

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    メーガン妃「ご愛用ブランド」がイギリス王室で愛さ…

  • 5

    米モデル、娘との水着ツーショット写真が「性的すぎ…

  • 6

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ノーベル文学賞らしい要素」ゼロ...「短編小説の女…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中