最新記事

北朝鮮

北朝鮮でわざと顔に傷をつける女性が増加......「喜び組」選抜を恐れ

2018年7月24日(火)15時45分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

写真は2015年の朝鮮労働党創建70周年の祝賀式典で夫人らとともに楽団の演奏を鑑賞する金正恩 KCNA-REUTERS

<「喜び組」と呼ばれる美少女選抜組に選ばれることを恐れて、北朝鮮の女性たちはわざと顔に傷を付けたり男性問題を起こしたりしている>

「あまり美人に育たないでおくれ」

韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使が近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で明かしているところによれば、北朝鮮で近年、自分の娘を眺めながら、このように願う親たちが増えているという。

これとよく似た話を、韓国紙・朝鮮日報も2014年1月26日付で次のように伝えていた。

〈平壌の女性が最近、「喜び組」と呼ばれる中央党5課に選ばれないように、わざと顔に傷を付けたり「事故」を起こしたりしているという。かつて平壌の女性は、5課(喜び組)に選抜されたら家門の栄光だと考えていたが、最近では「ブタ(金正恩朝鮮労働党第1書記・当時)や中央党の老いぼれのめかけにされるのに、どうして行くのか」と言って、意識的に避けているというわけだ。〉

「中央党5課」とは、北朝鮮最強の権力機関である朝鮮労働党組織指導部の中に置かれた部署だ。5課は中央から道・郡・市などの末端にいたるまで組織網を張り巡らせ、14~16歳の美少女を選抜し、権力者たちに仕えるタイピストや看護師、警護員に育てるシステムがある。有名な「喜び組」もまた、この中で養成される。

朝鮮日報によれば、その実態は次のようなものだ。

〈最近脱北した平壌出身の女性は「5課に選ばれて行ったら、10年以上も家族と会えないまま年老いた中央党幹部のめかけとして暮らし、社会に出たら後ろ指をさされるので、平壌の女性たちは手段を選ばず(選抜を)避けている」と語った。

(中略)若いうちは金氏一族のめかけとして過ごし、年を取ったら党から指定された男性と強制的に結婚させられるからだ。さらに喜び組の女性は、党から(結婚相手として)あてがわれた護衛隊員が気に入らないと言って拒否した場合、処罰されるという。〉

参考記事:「エリート女学校長は少女達を性の玩具として差し出した」北朝鮮幹部が証言

ここで言われている「護衛隊員」とは、金正恩氏らロイヤルファミリーを身近で警護する護衛総局の要員を指す。南北首脳会談や米朝首脳会談が行われた際、短髪で屈強な体躯の男性らが金正恩氏を取り囲んでいたのを見た読者も多いだろう。彼らがまさに、護衛総局の護衛隊員たちだ。

軍人としてはエリート中のエリートである彼らは、配給などの面で徹底して優先されるが、生涯にわたり金王朝の秘密を守ることを約束させられる。それだけに、「秘密」のかたまりである「喜び組」の女性らを引き受けさせるには丁度良いと考えられているわけだ。

しかし言うまでもなく、そのような結婚は幸せなものになりにくい。朝鮮日報は続ける。

〈北朝鮮の地方党機関で喜び組の選抜に関与していたある脱北者は「中央党幹部の私生活をよく理解している護衛隊員の立場からすると、老人たちが飽きるほどもてあそんだ喜び組の女性を妻に迎えるのは気分の良くないことだったが、命令なので仕方なく結婚して暮らした」と証言した。このように否定的な見方が強いため、平壌の女性は喜び組に選ばれないように、故意に顔を傷つけたり、男性と会って「事故(性関係)」を起こしたりする。喜び組への選抜基準上、顔に傷があったり処女性に問題があったりするケースは脱落するからだ。〉

太永浩氏によれば、北朝鮮の庶民がこのような5課の実態に気づいたのは、2013年に金正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長が処刑され、その巻き添えで彼の愛人らが粛清されたからだという。ただ朝鮮日報の記事を読む限り、少なくとも平壌市民の間では、もっと早くから知れ渡っていたようだ。

参考記事:【動画アリ】ビキニを着て踊る喜び組、庶民は想像もできません

当局がいかに「保秘」に努力しようとも、権力中枢のおぞましい内幕は、いずれ国民すべての知るところとなるのだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米アルファベット、ポンド建て100年債発行 IT業

ワールド

米ミネソタ州知事、トランプ政権の移民取り締まり「数

ワールド

中国首相がレアアース施設視察、対米競争での優位性示

ビジネス

AI懸念が米金融株にも波及、資産運用新興の新ツール
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中