最新記事

米朝会談

まるで金正恩の代弁者だったトランプ 何より優先された会談の成功

2018年6月13日(水)18時00分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

会談を成功させたいあまりリップサービスが過ぎたトランプ米大統領(6月12日、シンガポール・セントーサ島) Jonathan Ernst -REUTERS

<史上初の米朝会談に終始ご機嫌だったトランプ、金正恩を喜ばすような発言を連発して米国防総省や同盟国はきりきり舞い。核問題もこれからが大変だ>

今回はドナルド・トランプを認めざるをえない。確かに歴史的な会談だった。アメリカと北朝鮮の指導者が顔を合わせるのはこれが初めて。そして、米朝の指導者が互いに罵りあい、軍事衝突が現実味を帯びはじめていた2017年の基準からすると、この新たな友好ムードには価値がある。

「戦争か平和かを基準にするなら、6カ月前よりも今のほうがはるかにましだ。当時は戦争の話で持ちきりだった」と、国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めていた北朝鮮専門家のビクター・チャは言う。

だがそれはかなりレベルの低い話だ。会談終了後、アメリカの同盟国が抱いた懸念は、表向きの反応とは裏腹に、かなり深刻なものだった。

トランプは北朝鮮が要求する米韓合同軍事演習の中止に合意して、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権に衝撃を与えた。米国防総省も寝耳に水で面喰った。さらに驚いたのは、トランプが米韓軍事演習を「挑発的」な「戦争ゲーム」と呼んだことだ。

その瞬間、マティス国防長官は気付け薬に手を伸ばした

戦略国際問題研究所のスー・ミー・テリーが指摘するように、これらの言葉遣いは北朝鮮のプロパガンダ用語そのものだ。「ジェームズ・マティス国防長官はその瞬間、気付け薬に手を伸ばした」と、元NSCスタッフは言う。

自己肥大症トランプの迷走は、まだ始まったばかりだ。彼は韓国に駐留している米軍兵士約2万9000人を「ある時点で」引き上げたいと言った。なぜなら、駐留費が「とても高くつくからだ」。

トランプが「親愛なる友人」と呼ぶ中国の習近平(シー・チンピン)国家主席にしてみれば、これほどありがたいことはない。

ところが北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は4月下旬の南北首脳会談で、韓国の文大統領に、北朝鮮の体制が保証されるなら在韓米軍の存在はもはや脅威ではなくなる可能性がある、と言ったとされる。

中国の習はすぐに、3月に訪中したばかりの金を5月初めに北京に呼び、二度目の会談を行った。アメリカの政策立案者は、在韓米軍の縮小・撤退問題はいずれ再び交渉の俎上にのるものと予想している。

たとえトランプが米軍撤退を可能性の話だと考えていたとしても、それを公言すればこれほどの影響が伴う。

米朝首脳会談の最も重要な課題である「核廃棄」を行うのは、マイク・ポンペオ米国務長官だ。北朝鮮側担当者と協議し、具体化しなければならない。
 
だがトランプが韓国から米軍を引き上げたいと明かしたことで、ポンペオは重要な交渉カードを失った、とブッシュ政権時代にNSCの東アジア大統領特別補佐官を務めたマイケル・グリーンは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中